経済学を学ぶ意味：証券アナリストの働き方

アナリストというのは難しい仕事だ。

普通トレーダーは会社の金で勝負をする。どんなに大負けしても、最悪クビになるだけで自分が損をするわけじゃない。会社を辞めた時点で全ての負けはチャラになる。

ところがアナリストが賭けるのは自分の評判だ。もし株価の予測が外れたら、損をするのは会社じゃなくて自分なのだ。例え予想を大外ししてクビになったとしても、自分の悪い評判はチャラになってくれない。だから、株価予想（これは自分の評判を賭けた真剣なトレーディングなのだ）には慎重に慎重を期さねばならない。

ただ、この慎重になるというのが結構難しい。ずっと下がっていた株価が底を打ったとする。ここで株価が反転上昇すると予想を変える手もあるが、もしかしたら今はただの踊り場でもっと下がってしまうかもしれない。そう考えてもたもたしている間に相場はどんどん上がっていき、いつのまにか周りのアナリストはみんな強気に切り替えてしまっていたりする。

それであわてて自分も強気に切り替えるのだが、もうその頃には強気相場もひと段落していて、今度はずるずると相場が下がり始める。この「慎重な」アナリストは強気に転換したばかりなので、朝令暮改に弱気に切り替えるわけにも行かない。で、耐え切れなくなって弱気に転換する頃には、マーケットは底を打っていたりする。

マーケットにひたすらビハインドし続ける、最もセンスの無い負け方の1つだ。上の例は極端だが、似たような事は結構良くある。個人で投資をなさっている方でも、心当たりのある方はいるのではないか（たくさんある、という方は向いていないので早めに足を洗ったほうが良い）。

ここで前回の麻雀放浪記の言葉が生きてくるわけだ。ただ慎重になっていてもだめだし、なによりポジションを転換するタイミングがつかめない。自分のポジションに理論があれば、その裏には必ず理論が成立するための前提条件があるはずだ。その前提条件が崩れたときが、ポジション転換のタイミングになる。マーケットにビハインドし続ける人は、ちゃんとした理論を持たないせいで相場に賭けることが出来ない人のことなのだ。

しかも、ちゃんとした理論があれば、ポジション転換についていくらでも説明が出来る。朝令暮改だって恐れる必要はなくなる。予想が外れた言い訳にも説得力が出る。トレーダーと違って、アナリストは自分のポジションを公表し、説明もしなければならないのだから、これは非常に重要なことなのだ。

インフレターゲットではないが、きちんとした理論武装はアナリストに信頼性と透明性と説明可能性（アカウンタビリティ）の３つを与えてくれる。筆者がアナリストをやっていた当時、経済学を勉強した理由をそう説明していた。

もし理論そのものが間違っていたらどうするかって？坊や哲の言うとおり、あきらめて客に謝るのだ。自分の信じる理論に賭けられないのでは、マーケットをやっていても楽しくないではないか。