今週のThe Economist: 世界が望むブッシュ再選
原題:Emerging Economies: Coming into flower (Oct. 16th, 2004)
あらかじめ申し上げておきたいのだが、今回のタイトルは元記事とは何の関係もない。たまたまこの記事の趣旨が元記事の趣旨からずいぶん離れてしまったのでこんなタイトルになってしまったのだが、元記事はあくまでも途上国経済の現状のレポート(直訳すれば開花する途上国経済といったところか)で、Economist誌は今回の選挙に対してはかなり中立的な立場を貫いているようだ。
好調な途上国経済
さて。通貨危機以後、途上国経済の調子が良い。南米のようにやらかしてしまった国も一部あるものの、途上国全体で過去4年間の平均GDP成長率は5%(以下、特に言及しない限り統計はEconomist誌から)を超える。アジアだけなら7%に達する勢いだ。ロシアなど(CIS)も7%、中東で5%、アフリカですら4%成長を達成しているのだから大したものだ。通貨危機にはまった南米以外はどこもかなり順調な成長を続けている。
Economist誌は、この理由について
・アメリカ・中国の需要増が輸出を増加させた
・国際的な低金利が利払い額を抑えた
という外的な要因に加えて、
・適切な経済政策と構造改革によってインフレが抑えられ、財政赤字が削減された
・国内の貯蓄が増加したため、外資に頼り過ぎない経済成長が可能になった
・通貨危機を招く為替の固定相場制を採用している国が少ない
といった要素が途上国の経済成長を可能にしたのだ、と説明している。
一応アメリカや中国経済の失速、原油価格の上昇をリスク要因として挙げてはいるものの、全体的にかなり楽観的な記事になっている。
それほど出来の悪い記事ではなく、面白く読めるのだが、いくらなんでも構造改革や変動相場制への切り替えが経済成長を可能にしたという説明には無理がありすぎる。Economist誌自身が強調しているように、昨今の途上国の経済成長は一部の国ではなく、途上国全体に見られる現象なのだ。その全ての国で構造改革や経済政策が成功を収められるほど、世の中甘くはない。固定相場制については次回中国経済の話と絡めて書くつもりだが、別に変動相場制にしたからといって経済成長が出来る理由など何一つ存在しない。
これだけ幅広く経済成長が確認されたということは、共通の外的要素が強く働いたと考えるほうがずっと自然だろう。そこで、下のグラフを見ていただきたい。これはEconomist誌91ページに掲載されていたグラフを適当に再現したものだが(そのため不正確)、途上国経済の海外からの借入額の推移を表したものだ。

90年代前半は、海外からGDPの1~2%を毎年借り入れていたものの、通貨危機の起こった97年頃からマイナス、つまり借入額よりも返済額がずっと多い状態が続いている。過去20年間ではまったく見られなかった傾向の上、近年更に返済額が増加しているというのもポイントだ。なるほど、Economist誌の書くとおり、外資に依存しない経済体制が出来上がっているようにも見える。
「通貨危機という試練を乗り越え、途上国経済はより賢く生まれ変わったんだ!」とEconomist誌と一緒に盛り上がっても良いのだが、少し待ってほしい。なんでもかんでも経済構造の変化で理由付けしてしまうのは楽ではあるが、まるで見当違いになってしまうこともよくあるのだ。
ここで、ひとつ経済学の理屈を紹介しておきたい。大学1年で学ぶ単純な理屈なのだが、実社会での使い勝手はかなり高く、その割にはあまり使われていないという代物だ。単純な式なのだが、
(外国からの借入額)=(貿易赤字)
というものだ。一般的にはSIバランスと呼ばれている(ISバランス、貯蓄投資バランスとも)。
貿易赤字とは、そもそも「自分の国で生産する以上に消費をする」ということだ。働かざるもの食うべからず、生産した量より多い所得を得ることは不可能なので、貿易赤字とは「所得以上に消費している」状態を指すわけだ。
基本的には、所得以上にお金を使うことは出来ない。どうしても物が買いたければ借金をするしかない。だから、貿易赤字が増加すると海外からの借入額も同時に増えなければおかしい。逆に言えば、海外からの借金を返済しまくっている経済では、貿易黒字が増加している可能性が高いわけだ。
そう考えると、Economist誌が「構造要因」として挙げた外資に頼らない経済成長、というお題目はかなり怪しい。上のグラフは、単に途上国の貿易黒字が拡大していることを意味しているに過ぎないからだ。
途上国経済の現実
そこでもう少し詳しく統計資料を見てみると(以下、IMFのWorld Economic Outlookから)、「開花する途上国経済」なんていっている場合ではない現状が見えてくる。
確かに、Economist誌が報じるとおり、GDPの伸び率は悪くない。アジアの新興工業国で、2001-04年の平均成長率は4%弱。通貨危機前は6%前後の伸びだったのだが、なんとか持ちこたえたという印象だ。一方、まずいのは内需の伸びだ。90年代後半は7%前後の伸びが続いていたのに、01-04年で2%弱まで低下している。
特にひどいのが設備投資だ。90年代後半はぶれは大きいものの5%前後の伸びを確保してきたにもかかわらず、01-04年ではわずかに0.5%強。Economist誌は「外資に頼らない成長」というものの、実際には資金需要そのものがないのだ。
インフレ率も最近かなり抑えられていることは確かだが(2桁が当たり前だったのが、途上国平均で6%前後まで低下)、これを見ると、経済政策でインフレ率をうまく押さえ込んでいるのではなく、単に景気が悪いから物価が低いんだと考える方が自然だ。
ではなぜGDPだけは調子が良いのか?上でも書いたが、結局、輸出増がこれらの問題を全て解決している。アジアの新興工業国では通貨危機後から貿易収支が黒字に転じ、その他の途上国でも2000年から恒常的に赤字だった貿易収支が黒字へと転化している。この輸出増がなければ、アジアの新興工業国でGDP成長率は半分になっていたはずだ(おそらく、他の途上国ではもっとドラスティックに成長率が下がるはず)。
世界を支えるジョージ・ブッシュ
ところで、輸出を増やすには、輸入を増やしてくれる国がなければならない。当たり前の話だ。では、途上国からの輸出をいったいどの国が引き受けているのか?アメリカしかない。日本も、ユーロ通貨圏の諸国も、基本的には貿易黒字が続いている。実のところ、アメリカ以外に貿易赤字を出している地域は東ヨーロッパくらいなのだ。
つまり、アメリカが世界の輸出増を一手に引き受けるというものすごい構図になっているわけだ。そのために、アメリカの貿易赤字はクリントン時代から倍増している。ブッシュの積極財政(軍事費増を含む)政策がなければ、今の途上国経済はありえないのだ。
世界の嫌われ者呼ばわりされているブッシュ大統領だが、意図するとせざるとにかかわらず彼が積んでいる功徳は、決して小さなものではない。今は経済が順調なのでどの国でも政治的な発言がクローズアップされがちだが、そもそもそんな余裕が生まれたのはブッシュ政権のおかげともいえるのだ。
世界中で叫ばれるNo Bushの掛け声の影で、ひそかにブッシュ大統領を応援する人々は、実は世界中にたくさんいる。ブッシュの敵視政策の餌食となっているフランスや中国でさえ、アメリカへかなりの量を輸出しているのだから。
本日のまとめ
途上国経済は最近順調だが、それは輸出の増加に依存したものだ。
世界の輸出増をアメリカが一手に引き受けており、それはブッシュの積極財政政策によるところが大きい。
ケリーが当選したら貿易赤字の圧縮に乗り出すのは間違いないので、実は世界中のビジネスマンはブッシュの再選を望んでいる。
追記:H.A.さんから文中の間違いのご指摘をいただき、本文を一部修正しました。詳しくはコメント欄をご参照ください。


Comments
で、アメリカの財政赤字を支えているのは、日本や中国の
米国債買いということ。。
ほんと、金は天下の回り物ですね。
Posted by: ひろ | October 31, 2004 at 11:14 PM
ひろさん、コメントありがとうございます。
おっしゃるとおりです。昔橋本首相が「いざとなったら日本が保有する米国債を売るぞ」とか言ったことがありましたが、あれは勘違いもはなはだしいというやつで、貿易黒字を維持するためにはアメリカに何らかの形で金を貸さないとならないわけです。
米国債ばかりというのも芸がない話ですが、下手に土地や株に手を出してやけどするよりはましだろうと。特に、今は民間部門がびびって対外投資を手控えていますので、政府としては米国債を買うしかないでしょうね。
Posted by: 馬車馬 | November 01, 2004 at 12:00 AM
>(外国からの借入額)=(貿易赤字)+(財政赤字)
って、おかしくないですか?
(外国からの借入額)=(資本収支黒字)=(経常赤字)
ですよね?
その後の議論にはそう影響しないのでいいのですが・・・。
Posted by: H.A. | November 01, 2004 at 02:56 AM
うわぁ。ご指摘ありがとうございます。
要は S-I=(Ex-Im)+(G-T) を書きたかっただけなのですが、
貯蓄超過という言葉を使いたくなかったので対外貸付と置き換え、その時点で対外貸付(対外純投資)=貯蓄超過-財政赤字=資本収支赤字なのでG-Tを消去しなければならないのに、それを忘れてしかも符号が逆という二重三重のミスが。
もともとは財政赤字の話もする予定だったのでG-Tを明示的に残していたんですが、推敲段階で言葉を入れ替えたり貯蓄超過の式を貯蓄不足の式に逆転させたり財政赤字の話をそっくり削除したりしている間にめちゃくちゃになってしまいました。反省。
本文は後で直しておこうと思います。もう財政赤字の項を明示的に残しておく必要もないので、H.A.さんのご指摘どおり単純に借り入れ=貿易赤字と表記してしまう方向で。
改めてありがとうございました。
それにしても、この式って理論的には美しいんですけど、統計上は外貨準備増減と誤差脱漏が大きすぎていまいち「具体的な説明」がしづらいんですよね。
Posted by: 馬車馬 | November 01, 2004 at 05:16 AM