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札割れのお話(3) 傾向と対策

さて、大半の読者を完全に置いてけぼりにしたこのシリーズもこれで最終回だ(ということなのでどうか今後ともお見捨てなく・・・お願いしますお願いします)。

前回今回の札割れの原因は政府が資金を大幅に市場から吸収したせいだ、ということを書いた。ただ、その理由が良く分からなかったので、今後の見通しも書くことが出来なかったのだが、本石町日記氏から頂いたアドバイスを元に色々調べてみたら大体全体像がつかめたように思うので、まとめてみたい。


前回説明したように、今回の札割れは政府がマーケットから大量のキャッシュを吸い上げてしまったために当座預金残高が急減し、それを支えるために日銀が大量の買いオペ(資金供給オペ)を実施したことが原因だ。当座預金が減少したと言っても、もともとキャッシュはだぶついているので、一時に大量のキャッシュを供給しても完全には吸収し切れない。これが最近になって札割れが頻発している原因だ。

ではなんで政府がマーケットから大量のキャッシュを吸い上げているのかという辺りが良く分からなかったのだが、本石町日記氏から税収増、前倒し発行などキーワードをご教授いただいたので、それを元にざっと調べてみた。


あまり増えていない税収

まず税収増を見てみよう。

tax2003-2004

この図は毎月の税収をプロットしたものなのだが、特にぱっとしない。昨年とほとんど変わらないペースだ(まぁ、11月くらいまでに入ってくる税収というのは大半が源泉徴収のものだから、変わりようがないという側面もある)。他の統計で今年1月の税収まで確認したが、やはり前年度と比べてほとんど差がない。とりあえず、現時点では税収増の要素は無視してもよさそうだ。


国債の前倒し発行?

じゃぁ、なんでこんなに政府にお金が入ってるのよということで統計をつらつら眺めていたのだが、一般会計のほうはほとんど前年度と変化がない。ところが、国債整理基金特別会計という項目だけがえらいペースで資金を吸収しているのが分かる。犯人はお前か。

国債整理基金特別会計というのは、国債の償還を一手に引き受けるある種の「口座」だ。満期を迎えた国債は政府が当然返済しなければならないわけだが、返済の際必ずこの国債整理基金特別会計という口座を経由して支払われる。支払うといっても、今の日本政府は今年の食い扶持を手当てするためにも新たに借金を重ねている最中であって、昔の借金の返済などに金を回す余裕など当然ない。そこで、借換債という国債を発行して、それで返済資金を工面しているわけだ。ちなみに、来年度は170兆円ほどの国債が発行されるのだが、そのうち100兆円以上がこの借換債である。この借換債を発行して得た資金や、政府のほかの部門(他の特別会計など)からかき集めてきた資金が一旦この国債整理基金特別会計に蓄えられ、後は国債が満期を迎えるたびにここから支払いが発生する仕組みになっているわけだ。

で、この国債整理基金特別会計の何が問題かというと、この特別会計が資金を使い切らないまま次の年に繰り越す「剰余金」の額が年々増えているのだ。要するに、満期を迎えた国債の返済(償還)に必要なお金よりずっと多い額を、借換債発行によって調達しているということになる。ざっと最近の予算書を調べてみると、数年前まではこの剰余金は4兆円前後だったのが、2003年度で9兆円、2004年度に一気に急増して24兆円となっている。つまり、政府は当面使う当てもない金を15兆円も余計に調達しているのだ。

BOJ-Gov-Gensaki

前回使った図を再掲するが、2003年度から2004年度にかけて大体20兆円で推移していた政府預金(+売現先)が、2004年度下半期になってから急増して30兆円台に乗せている(途中で一度急増しているのは年度末要因)。1月時点で35兆円に達しているからちょうど15兆円の増加。帳尻も合う。

言い換えると、民間部門から政府は15兆円を吸い上げ、その分だけ日銀の当座預金残高は減少していたということになる。ほっぽらかしていたら当座預金残高は20兆円程度まで低下していたことになるわけだ。それを何とか30兆円台で食い止めたのだから、日銀はまぁよくやったということになるのだろう(感動はしないけど)。

さて、なぜ国債整理基金が必要もないお金を大量に調達しているかというと、いわゆる平成20年問題というやつがあるからだ。1998年に小渕内閣がかなりの規模の公共投資をやったとき、財務省はその資金の大半を10年債の大量発行でまかなった(その当時は5年債も30年債も存在すらしていない)。で、その10年債がめでたく満期を迎えるのが2008年、平成20年というわけだ。目先10年の間では、2008年度が返済額のピークなのだ(次のピークは2014年度以降)。

ちなみに、最新の予想ではこの2008年度の返済額は130兆円。2004年度の返済額は90兆円ほどだから、ここからいいペースで返済額が急増する。まぁ、これでも問題の98年度発行の10年債を買入消却する話が進んでいるので、予想返済額は随分減っている。昨年度までの予想では2008年だけで150兆円近く返済せねばならないはずだったのだ。

で、突然2008年になって「今年はたくさん返済しなきゃいけないので発行も大幅に増やします!」などとやると市場がパニックに陥る恐れがあるので、何年か前からちまちま発行額を増やして、2008年度に向けて積み立てておきましょうねということになった。これが借換債の前倒し発行というやつだ。で、この積み立てている24兆円は当面使い道がないので、短期的に国債を買い戻して利払い額の節約を図っているというわけだ(これが上の図の「売現先」)。最近の短期金利の急落の一因もこの辺りにあるような気がする。


札割れはこれからも続くのか?

さて、原因が分かればある程度予測を立てることが出来る。2005年度の予算書(案)をチェックすると、来年度の剰余金残高の予定額は30兆円。6兆円ほどを前倒し発行するということになる。ただ、2004年度の15兆円増に比べれば3分の1の規模ということで、大したインパクトはないと言っていいだろう。

これから3月にかけては毎年政府預金は増加する傾向にあるので(税収増などが原因)、当面当座預金は減少傾向が続き、日銀の担当者にとっては胃の痛い日々が続きそうだが、来年度に入ればこの問題も一段落するのではないだろうか。


ところで日銀は何をすればよいのか?

そもそも筆者は当座預金残高が20兆円まで減ろうが、50兆円まで増えようが、そんなことは経済にとって何の意味もないと考えている人間なので、まじめに答えるならば「何もしなくても良い」ということになってしまう。ただ、それだと書いている筆者自身が面白くないので、とりあえず当座預金残高を維持するためにはどうすればよいか考えてみたい。


札割れのお話(1)でも書いたことだが、当座預金残高がここまで増えたのは、超低金利を受けて、各金融機関が必ずしも必要のないキャッシュをそのまま自行の当座預金口座に放置しておくようになったからだ。金利がカス同然になった以上、手元資金を減らして利払い額を抑えるより、無駄金を持つことになっても取引回数を減らしたほうが有利なのだから。

言い方を換えると、当座預金残高の増加はマネーマーケットの資金効率の低下、経済学用語を使えば流通速度の低下とイコールだったわけだ。だから、マネーマーケットの効率を更に下げるような政策を打ち出せば、当座預金残高を更に増やすことが出来ることになる。例えば、ロンバート貸出(緊急時に足りなくなった資金を日銀が一定の利率で貸し出す制度。昔はこういうことをやると日銀に怒られたのだが、このロンバート制度を使うと怒られなくてすむらしい)の廃止(または貸出金利引き上げ)。こういうセイフティネットの制度があると、銀行は「いざとなったらこの制度を使えば資金は調達できるから、別に今資金を調達しなくてもいいよね」ということになりかねない。こういう制度がなければ、都銀は「念のために借りておくお金」を増やし、当座預金が増加する可能性があるわけだ。


また、札割れを無視して更に買いオペを増やすという手もある。本質的には、札割れというのはそれほど大きな問題ではない。8000億円の資金を供給するつもりが4000億円しか応募がありませんでした、大変だ、と慌ててみても、少なくとも4000億円は供給できたわけだし、予定額を最初から4000億円にして置けば札割れになることもなかったのだから。札割れというのは単に「日銀の担当者がちょっと読み違えちゃいましたね」という程度のことに過ぎない。札割れが月に100回起ころうが、当座預金残高さえ増えていれば、日銀としては目的を達している。むしろ、札割れ覚悟でオペ回数を増やしたほうが、銀行の資金ニーズをきめ細かく拾うことが出来る可能性もある。


後は、やはり中長期国債からの買入は考えたほうが良いだろう。何しろ、現状の短期国債の利回りは低すぎる(0.002%)。下限金利ぎりぎりなのだ。別に買入を満期1年までの短期国債に限定する合理性があるわけではない。これが満期まで残り2年の10年債を買い入れても、特に問題はないはずだ(ただし、満期まで8年もあるような国債を購入して札割れに備える、というのは難しいだろう。短期のマネーマーケットと、長期の国債マーケットでは市場規模がまるで違う。マネーマーケットで1000億円というのは大した金額ではないが、満期まで10年以上ある国債を1000億円分まとめて買ったら相場が動く。

また、中長期国債を買った分だけ短期国債のオペの札割れが増えるだけで意味がないという説もある。理屈の上では正しいだろう。ただ、兎にも角にも短期国債の金利が低すぎるという状況があり、実際に短期国債の買入オペで札割れが頻発し、残高も減少している以上、この問題を放置するというのは政治的にも難しいかもしれない。


また、Bewaad氏とfinalvent氏の間でオペの基準価格についての議論が交わされていたが(詳しくはこちら)、オペの基準価格はヤフーオークションの最低入札価格とは異なり、あくまでもベンチマークに過ぎない。日銀はこの基準価格より上でも下でも、基準価格に近い入札から選んでいくので、この基準価格が札割れを招いているということはないはずだ(このあたりを見ても、日銀が基準レートよりも上でも下でも入札を受け入れていることが分かる)。


本日のまとめ

札割れの原因は、財務省が2008年度の国債大量償還に備えて、借換債(国債の一種)を前倒しで大量発行しているため。このため、政府が民間から大量の資金を吸い上げて日銀の当座預金残高が減少し、それを食い止めるために日銀が大量の買いオペ(資金供給オペ)を行った結果、札割れが頻発した。

当座預金の増加とは要するにマネーマーケットの資金の使い方の効率が下がっている(流通速度の低下)ということなので、さらに効率を下げるような手を打てば当座預金を増やすことが出来る。

短期国債の利回りは下がりすぎたので、残存期間2年程度の中長期債の買入も視野に入れたほうがいいかもしれない。

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Comments

馬車馬さん、お疲れ様です。
私も「何も意味はない派」です(笑)が、実現可能性は別として、札割れ対策を幾つか考えてみました。
 まず政府側の対応として、①国庫内貸付(一時的に外為特会などに融通→FB発行を減らす)②民間銀行の政府預金受け入れ(米国などのように)③2008年度償還国債を買い入れ償却する-など。
 日銀側の対応は、①国債買い切りオペの増額②資金供給オペの期間を一年超に伸ばしていく③入札金利1000分の1以下の容認④資金供給手段の拡充(外債購入等)-など。現実的には日銀は①をやるのが筋ですね。
 その他、バカみたいな目くらましとして、準備預金率を引き上げ、所要を30兆円以上にする(引き締めですが)。オペはほとんど不要。短期金利はぶれそうですが、いずれにせよロンバートが天上になります。
 

Posted by: 本石町日記 | February 17, 2005 at 01:55 PM

我ながらなんでこんなに書いたのか良く分からないのですが(笑)。まぁ、札割れで検索して来られた方が随分たくさんおいでだったようで、まぁそういう方々のお役に少しでも立てていればいいなぁと(Yahooで札割れを検索するとここがトップに来るからのようです。正直、Yahooの検索エンジンはアルゴリズムを練り直したほうが良いかと)。

とりあえず、当座預金残高を維持するにあたって技術的な問題はあまりない、と結論付けてよいようには思えますね。

Posted by: 馬車馬 | February 18, 2005 at 09:37 PM

はじめまして。現在就職活動中の学生です。ネットで札割れについて調べていたらこのblogにたどり着きました。
札割れ以外についても、金融政策に関する議論について詳しく書かれていて、とても勉強になりました。感謝しています。
ゼミではファイナンス理論を専攻しているのに、金融政策に関する議論の内容が一向に理解できず、調べようにもさまざまな説が錯綜してしまっていて、困っていました。
馬鹿なのでこれからもいろいろ教えて下さいm(_)m

Posted by: なのに | February 24, 2005 at 01:41 PM

なのにさん、はじめまして。コメントありがとうございます。

札割れなんて興味持つ人いないよなぁ、なんで独りでこんなに盛り上がってるんだろうなぁと思いながら書いていたのですが、少しはお役に立てたようで幸いです。

金融政策の議論は実際に錯綜していますから、そうお感じになるのは当然かと思います。結局、いくつかの議論を見比べ、それぞれの議論の根本となる前提条件がなんであるかを見極めた上で(それ以前に、前提条件から結論に至るロジックが間違っていては話にならないわけですが)、自分にとって現実にフィットしていると思える前提条件を使った議論を支持する(前提条件の正誤を判定することは不可能なので、自分の感覚で選ぶしかないわけです)、というプロセスを踏むのが正しいとは思うのですが、そんなのおいそれと出来ることじゃないですよね。手間がかかりますし・・・その辺りを美しく解きほぐして説明できればいいのでしょうが、とりあえず今後の宿題にさせてください(笑)。

私にとってはファイナンス専攻がうらやましいですね。仕事の必要上それなりに勉強はしましたが、体系だって勉強したことがない(それ以前に、確率論が分かってない)もので。いつかリベンジしたいと思っている分野のひとつです。

今後ともよろしくお願いします。

Posted by: 馬車馬 | February 25, 2005 at 09:16 AM

初めまして。私もなのにさんと同じように就職活動している大学生です。一応大學では金融政策を専攻しているので、札割れには興味を持っていました。専攻してても、わからないことだらけです・・・。勉強してないという頭の悪い事実もありますガッ・・・orz。

ちょっと、時間がなくて斜め読みの状態なので(1)から時間かけて読んでみたいと思います。

そして今日、日銀の大阪支店を見学してます。

Posted by: トイズ | February 25, 2005 at 12:03 PM

トイズさん、はじめまして。コメントありがとうございます。

そうか、もしかしてこんなマイナーなネタを検索してこられた方が多かったのは、日銀の就職活動が始まったからという要素もあったのでしょうか。

まぁ、学部で習う金融政策のマクロな理論とこういうミクロな話はあまりつながってませんから、ご存じないのもしょうがないことだと思います。私もそうでしたし、学部時代に仕入れた知識で一生懸命説明しても「うーん、君はマーケットが分かってないよ」と言われてしまって悔しい思いをしたのも、証券業界に進んだ一因かもしれません。その場にいないと分からない皮膚感覚のようなものがあるなら、それを会得してやろうと。

とりあえず第9回までで一旦完結していますので、その辺りまで読んでいただければありがたいです(インフレターゲットや銀行の話を除いて、大学1~2年で習う経済学のレベルで議論するようにしています)。ただ、個別の細かい話(政策トピック)は第10回以降のほうが多いですね。

日銀見学ですか。そういえば私も行ったことがあります。あれは何年前のことだったか・・・←今だけで3か月分くらい老けました。

Posted by: 馬車馬 | February 26, 2005 at 09:14 PM

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