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人権擁護法が悪用されない条件

本当は韓国シリーズの続きか、匿名実名シリーズの最終回を書こうと思っていたのだが、どうにも時間が取れないので切込隊長経由で見た小倉弁護士の人権擁護法案に関するエントリーについて簡単に考えて見たい。

実のところ、筆者はこの問題には完全に乗り遅れたクチで、しばらくブログ巡りをサボっていたらBewaad氏のところに恐ろしい量の議論が蓄積されていて、それ以降考えるのを止めていた。大体、法律を考えるのは苦手なのだ(ややこしいので)。ただ、小倉氏の展開する「人権擁護法が特定の政治団体(部落開放同盟など)に悪用される可能性はほぼ皆無」というエントリーに対しては、法律云々とは別の視点を提供できそうに思う。以下、少し書いてみたい。(3/30、文末に大幅に追記)

小倉氏のポイント

まず、大雑把に小倉氏の議論をまとめると、

・人権委員会さえちゃんと機能していれば、人権擁護法が悪用されることは無い。
・学識関係者という縛りがあるので、ふたり以上の部落解放同盟関係者が選ばれる可能性は低い。
・ただし、解同の影響力から言ってひとり選出される可能性はある。
・人権委員会は多数決なので、ひとりの解同関係者の影響力は限定的。
・当該委員以外の4人の賛成があれば、その委員は罷免される。
・差別解消プロトコルは対象者の人権も配慮している。

といったあたりだろうか。これらの条件が満たされていれば、擁護法は悪用されないというわけだ。他にも論点はいくつもあるが、とりあえずここでの議論には関係しない。

もちろん、この条件それ自体に対する批判は可能だろう(解同からふたり選ばれる可能性もある、とか)。しかし、上の条件が全て満たされたとしても、依然として擁護法が悪用される可能性は結構ある。小倉氏の考え方には、委員の間のコミュニケーションという要素が完全に欠落しているからだ。


偏向委員同士の「盟約」の威力

とりあえず、解同が一議席を占めた委員会を考えよう。もちろん、小倉氏が指摘するとおり、それ自体は大した影響力が無い。ただし、もし別の宗教団体か何かが別の一議席を占めていたらどうなるだろうか?両者はそれぞれ擁護法を利用して陥れたい政敵やら法敵やらがいるとする。しかし、小倉氏が指摘するようにそれぞれの影響力は限定的だから、両者は「お互いが陥れたい敵には共同で賛成する」という盟約を結ぶのが合理的だ。

このとき、両者の政治的主張が対立していたとしても、盟約は成立する。要は、相手が追い落としたい人物が自分の陣営のメンバーでさえなければいいのだ。解同にせよ、どっかの宗教団体にせよ、敵は山ほどいるわけで、お互いの利害が衝突しないターゲットさえ選べば、盟約は必ず守られる。

こう書くと、5人のうち2人の賛成が確定しても、過半数には足りないんだから意味無いじゃん、という指摘があるかもしれない。だが、実のところ5人中2人の賛成というのは結構重い。例えば、残りの3人は偏向しない独自の判断を下すと仮定して見よう。もし、それぞれの委員が処罰?に賛成する確率が50%であった場合、委員会が処罰(勧告とか調停とか色々あるようだが、良く分からないので以下処罰で統一する。言葉の定義は余り気にしないで頂きたい)を決定する確率は87.5%にもなる。残り3人のうちたった一人でも賛成すれば処罰が確定するからだ。例え対象者が白に近い灰色で、各委員が賛成する確率が25%だったとしても、6割近い確率(正確には37/64≒57.8%)で処罰が決まる。

ちなみに、もし5人がそれぞれ独立に、偏向せずに判断を下す場合(賛成する確率は25%)、この委員会が処罰を決める確率は10.4%に過ぎない。ここに偏向的な委員がひとり入ると(必ず賛成する)、処罰が決まる確率は26.2%になる。つまり、例え盟約が無かったとしても、解同(または、その他の偏向的な委員)がひとり入るだけでも委員会の決定はかなりのバイアスがかかる。さらに委員のうち2人が盟約を結べば、委員会の決定に対してかなりの影響力を行使することが出来るのだ。

更に、この盟約は2人で構成しなくとも良い。3人以上でつるむことだって当然可能だ。その場合、いつでも100%確実に政敵や法敵を陥れることが可能になる。それらを考えると、委員会が偏向した委員の影響を受けない(悪用される可能性はほぼ皆無)とは到底言えない。むしろ影響は大きく、場合によっては致命的になると考えたほうが自然ではないだろうか。


人権擁護法が悪用されない条件

だから、小倉氏が挙げた条件では擁護法の悪用を防ぐことは難しい。上のような盟約を防ぐ最良の方法は、小倉氏の挙げた条件に加え、委員間のコミュニケーションを完全に絶つ必要がある。具体的には、任命された委員の氏名属性は一切非公表。委員同士の議論などはもってのほかであり、それぞれの委員は各自渡された資料から独自に是非を判断する。ただし、当然のことながら、この場合委員の選定に疑念が生じても一般の国民がそれをチェックすることは不可能になる。また、現実問題として委員同士が秘密裏に盟約を結ぶことを防止しきれないという問題も当然あるだろう。

もうひとつの方法は、委員を極めて頻繁に、出来れば案件ごとに入れ替えることだ(ある意味、陪審員制に近くなる)。この場合、例え別の委員に協力してやっても、その委員に自分の案件の協力を求める前に、自分かその委員のどちらかが辞任してしまっている可能性が高くなり、協力は難しくなる。ただし、この場合委員選定のハードルを下げざるを得ず、解同の委員の後任にまた解同の人間が入ってきた、ということになりかねない。この場合は協力関係は保たれてしまうので、上の方法に比べて実効力は低い。

正直、どちらの方法も筆者には難易度が高いように思える(敢えて言えば、委員のコミュニケーションを遮断するほうが望ましいだろうが)。筆者は擁護法案の全体像についてはまるで知らないし、法案自体については賛成でも反対でもない。しかし、この委員会方式はいくらなんでもいい加減ではないだろうか。


本日のまとめ

政治的スタンスが異なる委員同士が盟約を結ぶことで、偏向した考え方が人権委員会でかなりの影響力を持つ可能性がある。3人以上の委員が盟約を結べば、委員会を完全にコントロールできる。

盟約を防ぐ方法は無いでもないが、デメリットもあり、実効性にも不安が残る。


追記:
Plummet氏から「委員同士の合議を否定する論法は民主主義の否定につながる」というTBを頂いた(詳しくはこちらをどうぞ)。普通は頂いたTBに対してはそちらのブログにコメントを書くことにしているのだが、長くなってしまったので本文に付記する形で書き残すことにしたい。

思うに、plummet氏は合議制と代議制を混同なさっておられるのではないだろうか。

氏の指摘するとおり、議会などでは合従連衡は当たり前に行われており、これを咎める人はいない。これは、各政党が国民(の一部である支持者)の付託を受け、彼らの利益を代弁(だから代議士なわけで)することを職務としているからだ。だから、国民(支持者)の利益になるのであれば、どんな盟約も当然に正当化される。

一方、人権委員会で行われる「合議」は、それぞれの委員の背後にある団体などの利害を代弁するためにあるのではない。もしそうなら、学識経験者などという縛りは不要だし、なにより選抜の過程において直接的または間接的に投票の手続きを踏まなければ誰の代弁をするんだという話になってしまう(間接的とは、例えば議会による任命)。Plummet氏は「人権委員は選挙で選ばれていなくても選別の過程はくぐっている」と書かれているが、民主主義を語るのであれば、「誰に」選ばれたかが問題であって、セレクションの過程を経ること自体には何の意味もない。

さて、人権委員会での合議は議会における代議とどう異なるのだろうか。人権委員会の仕事は「何を持って人権侵害とするか」を判断することにある。これが明確に定義されているなら、何人いても全員が必ず同じ結論に至るので人権委員会の構成人数はひとりで十分だ。しかし、実際には人権とは極めてあいまいな概念であり、いくら中立たろうとしても侵害の有無の判断は人によって変化する。つまり、判断にノイズが混ざるわけだ。この状況では、委員がひとりだと「たまたまある委員が侵害だと認定した(別の委員は侵害ではないと判断しているにもかかわらず)」ということが発生し、対象者の運の良し悪しで人権侵害の有無が左右されるという状況が生まれる。これはどう考えても望ましくないので、複数の委員の答えを平均することで判断のノイズを可能な限り除去しようとするわけだ。委員会による合議制はそのために存在する。ここが議会などの代議制との決定的な違いだ。

この時、委員の何人かが結託して意図的にノイズを出すと、「複数の意見をまとめてノイズを減らす」という機能がうまく働かなくなる。だからこそ委員間のコミュニケーションは重大な問題になる、と指摘したわけだ。そもそも、ここでは全議員が中立に判断することが前提とされているわけで、偏向的に判断を下す委員が参加する恐れがあるというだけでも本来は大きな問題になる。そこに対して小倉氏が「多数決で決するのでその影響は無視しうる」と主張され、それに対する再反論として筆者のエントリーがある。

こう考えると、この問題で筆者が合議を問題視することと、民主主義(およびその一形態としての代議制)を否定することとは全く次元の違う問題だということがお分かりいただけるのではないかと思う(なお、TB先でwakewakaさんがこれとは違うアプローチでコメントされています。非常にエレガントなコメントなので、そちらも合わせてご覧いただければと思います)。(2005年3月30日 8時40分追記)

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Comments

いや、二人いれば強大ですよ

以下引用
http://www.moj.go.jp/HOUAN/JINKENYOUGO/refer02.html

第六条の2 委員のうち三人は、非常勤とする。
第十四条 人権委員会の会議は、委員長が招集する。
2 人権委員会は、委員長及び二人以上の委員の出席がなければ、会議を開き、議決をすることができない

です。
この法案は最初から安全弁が機能しないように作られているのではないかと疑います。

Posted by: 鷹森 | March 31, 2005 at 01:37 PM

鷹森さん、コメントありがとうございます。3人でもOKなんですか・・・それだと盟約なしでも3分の1の議決権を占めることが出来るわけで、影響力(の期待値)はかなり高くなりますね・・・。

マンパワーの問題があることは重々承知ですが、まずはもう少し委員会の人数を増やさないと話にならないような気はしますね。ちょっといい加減に過ぎるシステムのように思えます。

Posted by: 馬車馬 | March 31, 2005 at 10:35 PM

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