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郵貯:改革の理由(番外編) 財投機関債のお話

ちょっと表題から話が外れるのだが、一昨日の日経の記事にあきれ果てたのでひとつ文句を付けておきたい。23日3面の記事なのだが、『巨額の郵政資金がどれくらい民間に流れるか、数値目標を書いていない』という民主党政調会長のコメントを受けて、郵貯残高が3分の2になるという試算はあるが公約はないという点で『民主党案のほうが分かりやすい』とか書いている。

・・・馬鹿も休み休み言え。民営化した会社の経営指標を政府が決められるわけがないだろう。分かりやすいとか分かりにくいとか、そういう次元の問題ではないことくらい理解してから文章を書いてもらいたい。その程度のことも考えない民主党幹事長もひどいが、そのまま迎合する日経新聞もひどい。金もらって文章を書いている人間に最低限求められる知識と理解ってもんがあるだろうに。


財投機関債と「暗黙の政府保証」

さて、突っ込みはこれくらいにして本題に戻りたい。とはいえ、今回は郵貯の話ではない。どちらかというと財投改革の話であって、今回の選挙とはそれほど関係が無いし、シリーズの他の話ともつながりは薄いので、忙しい方は読み飛ばしていただきたい。

finalvent氏が財投機関債について問題を提起している。議論は大分広がっているが、多分これからこれ、続いてsvnseed氏のこれ、それを受けたこのエントリーとそれらを受けたBewaad氏のこの記事とそれに対するこちらでほぼ全体像を網羅しているのではないかと思う。どういう話なのかというと、今各特殊法人が発行を始めている財投機関債(前回の記事を参照)が正常な条件で発行されていないため、財投改革がゆがめられている、というのが根本的な問題意識のようだ。

前回書いたように、財投改革の主眼のひとつは「民営化が可能な組織は自前で資金を調達して、最終的には民営化していくべきだ」ということだった(はず)。ところが、もし財投機関債の買い手が「どうせ公団がつぶれそうになったら政府が支援するんでしょ」と高をくくっていたとしたら、上の理屈は崩壊してしまう。もし金融市場が「事実上政府保証がある」ものとして財投機関債を買いまくったとしたら、どんな特殊法人も内部改革なしに資金が調達できてしまう。それじゃいかんでしょ、というのがfinalvent氏の問題意識であるように見える。

以後、上で紹介したエントリーは全て財投機関債には「暗黙の政府保証」が存在するのは当たり前の事実である、という事を前提に議論が進んでいる。筆者はその議論には立ち入ることなく、財投機関債に本当に「暗黙の政府保証」はあるのか?という部分に話を絞って説明する事にしたい。


昔はあった「暗黙の政府保証」

結論から書くと、少なくとも10年前には「暗黙の政府保証」は存在した。こちらの分析によると、1995年前後の非政府保証債はAAA格の社債と同じかそれよりも低い金利で発行できていた。そもそも公社公団債がAAA格かどうかが怪しい上、例えそうだとしてもこの当時特殊法人は財務情報を殆ど公開してなかったのだから、金融市場は特殊法人が極めて健全な財務状況にあることを知りえない立場である。それで、非政府保証債がNTTよりも低い金利であったのは、金融市場が「非政府保証債もやばくなったら政府が保証してくれる」と考えていたからだ、と結論づけられている。


では、今は「暗黙の政府保証」はあるのか?

では現在はどうか、というと、状況は大分異なる。あの悪名高き本四連絡橋公団が去年発行した財投機関債(5年)の利率は0.85%で、国債+0.35%。これは、同時期のトリプルB(Baa)格の社債スプレッドとほぼ同等だ。本四公団がトリプルBクラスの会社と比べてどうかという議論はあるが(本四公団はAAの格付けを得ているが、格付けが甘い事で有名なR&Iのものなので、余り信用できない)、政府保証があるならこのスプレッドはゼロなり、トリプルAレベルの0.1%前後にならなければおかしい。ちなみに、同時期に道路公団が発行した機関債(5年)は表面利率0.78%(スプレッドは+0.24%)で、公団の間でもある程度は利回りに差が出てきていることが窺える。ついでに書くと、道路公団債はムーディーズでAa3、S&PでAA-と高い格付けを得ており、シングルAの社債スプレッドが0.15%程度であることを考えると、もっと低い金利で発行できていてもおかしくない。


svnseed氏こちらの分析を引いて『財投機関債に政府保証があるとマーケットに考えられているのは当然だろう』と書かれている。この分析では、国際協力銀行や政策投資銀行が+0.07%程度のごく小さなスプレッドで財投機関債を発行している事を理由に「暗黙の政府保証」の存在を説明している。実際、三井住友銀行の社債スプレッドは+0.10%~+0.14%なので、国際協力銀行は0.05%~0.08%ポイントほど低い金利で債券を発行できている。言い換えると、市場は政策投資銀行などの信用力をかなり高く評価していることになる。ちなみに、この金利差は政策投資銀行の格付けがダブルA(またはダブルAマイナス)なのに対し、三井住友銀行のそれはシングルA(またはシングルAプラス)と低いところから来ている。筆者はクレジットアナリストではないので、政策投資銀行や国際協力銀行の格付けが高すぎるのかどうかは判断できない。ただ、国際協力銀行は都銀と違って不良債権問題でぴいぴい言っている事は無かったはずだし、コンスタントに利益も出しているという事は指摘しておきたい。政府保証の問題を抜きにしても、国際協力銀行の格付けはそれなりには高いはずだ。

このあたりの事情を考えると、財投機関債の「暗黙の政府保証」はないとは断言できないものの、影響はかなり小さいと言ってよいのではないかと思う。


地方債の「暗黙の政府保証」の崩壊

実は、地方債についても同じ暗黙の政府保証の問題があり、財務が健全な東京都債と破産寸前の大阪府債が同じ利回りで発行されるという状況が長く続いていた。しかし、2002年頃にこの状況に変化が起こり、現在では都債と大阪府債では相当のスプレッド格差が付いている。簡単なまとめがウェブに載っていたので詳細はこちらにゆずるが、状況は確実に改善されつつあると言ってよい。そもそも、日本の債券市場は事実上1985年に始まり、各種ヘッジ手段(先物など)が十分な流動性を確保したのはやっと1995年前後という歴史の浅い市場だ。だからこそ変化は急速だし、5年前は当たり前だった問題が今では随分改善されている。あと5年あれば更に良くなるだろう。


そして、今後の方向性

前提条件が180度違うので、finalvent氏とは結論も全く異なってくる。財投機関債に「暗黙の政府保証」の問題がない、又はほとんどないのであれば、むしろ機関債の発行は奨励されるべきだろう。また、今回いくつかの公団のHPを見に行ったが、まだ十分とはいえないまでも、情報公開はだいぶ進んできている。これも機関債へのシフトが理由である事は間違いないだろう。

とりあえず今後の改革の方向性としては、この機関債の発行額を極力増やし、財投債の発行額を極力減らしていく、それに失敗した公団などは完全に政府組織に組み込む(それによって天下りだの退職金だのという鬱陶しくもどうでもいい話も消えるのではないか)、という方向でいいのだろうと思う。また、郵貯が財投機関債を購入しようと、それが郵貯自身の投資判断として行われているのであれば全く問題はないし、規制されるべきでもない。民営化というのはそういうことだろう。


本日のまとめ

財投機関債には「暗黙の政府保証」があり、特殊法人は不当に低い金利で資金を調達できてしまっている恐れがある。

しかし、10年前にはこの暗黙の政府保証があった(と金融市場が考えていた)が、現在はこの問題はある程度解消している。

「暗黙の政府保証」がないのであれば、財投機関債の発行を奨励するという改革の方向性はそれほど間違っていない。

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Comments

市場の評価から考えていこうというスタンスは読んでて気持ちよかったです。
あれこれ理屈こねなくとも、市場の声を聞けばわかりますね(^^

Posted by: ひろ | August 25, 2005 at 10:23 PM

http://gijutsu.exblog.jp/
このブログの破綻論
--------------------
国に「借金を返してよ!」と言っても、「お金がないので、固定資産、たとえばダムや道路や連絡橋を売却して弁済します」ということは事実上不可能ですし、「どうしても返して欲しければ、税金を徴収して弁済します」ということになります。
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どうしてこうなるのでしょうか?
政府貨幣でも無期限無利子国債でも日銀に引き受けさせ「お金刷って返します」とするべきでは?

Posted by: 非破綻論者 | August 27, 2005 at 08:14 PM

ひろさん、コメント有難うございます。

この件についてはBewaadさんから反論も頂戴しておりますが、どうあれスプレッド格差が随所で拡大してきている事は事実ですから、そういう現状はファクトとして受け止めるべきだと思います。そういう割り切りが出来るのがマーケットのいいところではありますね。

Posted by: 馬車馬 | August 28, 2005 at 01:45 PM

非破綻論者さん、コメント有難うございます。

このあたりは結構ややこしいところで、財政支出拡大+その分だけ日銀が紙幣を刷る、というやり方も、税金徴収の一形態に他なりません。いわゆるインフレ税という奴ですね。

結局のところ、債務を解消するには誰かがその債務を負担しなければなりません。普通に増税すれば所得・消費の多い人に、インフレ税であれば現金や債券資産の多い人にそれぞれ負担を強いる事になります。増税しないのであれば支出を切り詰めるという事で、福祉受益者や公務員及び公的企業関係者への負担が増えるでしょう。どこに負担を押し付けるべきかは政治的、経済的に色々と議論があるところだと思います。景気を重視する人であれば、消費に悪影響のある消費税の増税を避けたいでしょうし、公務員の人は自分の給料が下がることは許せないでしょうし。

そのあたりは、景気の議論をしているのか、財政改革という構造改革の議論をしているのか、そういった立ち居地を決めないと議論が定まらないのではないかと思います。ですから、べき論にジャンプする前に、まず議論をする人は立ち居地を明確にすべきではないかと思いますね。立ち居地次第でかなり幅広い議論を正当化できます。

ごく個人的には、普通に財政支出拡大もいいんじゃないかと思っているくらいなので、日本がすぐに財政破綻するとは思っていないのですが。

Posted by: 馬車馬 | August 28, 2005 at 01:56 PM

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» 財投機関債関連の別の側面 [finalventの日記]
 馬車馬さんのこれが参考になります。  ⇒郵貯:改革の理由(番外編) 財投機関債のお話  ええと、概ね賛成です。  というと、ここと矛盾するかのようですが… 前提条件が180度違うので、finalvent氏とは結論も全く異なってくる。財投機関債に「暗黙の政府保証」の問題がない、又はほとんどないのであれば、むしろ機関債の発行は奨励されるべきだろう。また、今回いくつかの公団のHPを見に行ったが、まだ十分とはいえないまでも、情報公開はだいぶ進んできている。これも機関債へのシフトが理由である事は間違いない... [Read More]

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