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郵貯:改革の理由(4) そして、改革のススメ

やはり週刊ペースで書き進むというのは今の筆者にはなかなか難しく、とうとう選挙直前になってしまったのだが、何とか書き進んでしまいたい。

まず第1回で、郵便事業は一般論としては民営化するのが望ましい、と書いた。また、一般的に語る以外に議論のすべがない事も書いた。水掛け論が見えている議論をするのは時間の無駄だからだ。

次に第2回で、郵貯の資金の出口の親方日の丸っぷりを書いた。そして、早急に郵貯の収益戦略を練り直さない限り、郵貯は黒字を維持する事すら難しくなる可能性について書いた(また、郵貯からの利益に全面的に依存している郵政公社にとって、この問題は致命的になる)。

第3回で、郵貯の資金の入り口、定額貯金の問題を書いた。定額貯金というのは本来銀行には手におえない複雑なデリバティブ商品であること(だからこそ、都銀で定額貯金を採用した銀行は無い)、そして、その複雑さに見合うだけの手数料(それはつまり、定額貯金の金利を引き下げるということ)を得ていないということを説明した。

歪み無き経済と政府の仕事

これらの問題から明らかなのは、「郵政問題は今解決すべき問題である」ということだ。そして、少なくとも民営化によってこれらの問題が解決されうる事も多分明らかだ。第1回で一般論として書いたように、その事業の収益性が極端に低いか、又は極端に高い独占力を行使できない限り、その事業は民営化したほうが良い。そして、郵便事業が宅急便とガチンコの競合関係にある以上、その片方が固定資産税も払っていないというのは不公正としか言いようが無い。今、日本の郵便・宅配産業はその意味で明らかに歪んでいる。

同様のゆがみが金融業にもある。デタラメな預託金金利で収益が確保され、それを前提に定額貯金という郵貯にとって赤字があらかじめ約束された商品が大量に販売された。それは郵便貯金を大きく肥大化させ、日本の預金産業(造語だが、預金商品を売る商売の事。預金を集める商売と同義)に大きな歪みを生んだ。

そして、その巨額の資金は今国債市場に流れ込んでいる。発行残高の2割弱を郵貯が保有しているのだ。マーケットにおいて、資金力というのは大きな力になる。詳述は避けるが、ビッグプレーヤーは多くの場合マーケットのイニシアチブを握っている。マーケットリーダーが官営、ということもまた国債市場にひずみを生む。

歪みは正されなければならない。ゆがみが非効率を生む以上、これは大原則だ(逆に、非効率の存在をゆがみだと定義してもいい)。そして、上で書いたように歪みのもとが官営である事から来るのであれば、まずは民営化すべきだと考えるのが一般的だろう。

念のために書くが、筆者は歪みの無い経済が理想の経済だと考えているわけではない。残念ながら、歪みの無い経済は全ての人に優しい経済であるとは限らない。むしろ、社会的弱者(弱者の定義にもよるが)に対しては過酷となるのが一般的だ。そして弱者が問答無用で切り捨てられる社会は望ましくないというのは現代社会の常識であり、憲法の定めるところである以上、歪み無い経済が生んだ弱者を救済するのは政府の役目となる。

だから、「社会的弱者が切り捨てられるのは良くないから歪みは放置した方が良い」という考え方は原則論として間違っている。経済のゆがみを正す、ということがまずあり、その大原則で取りこぼされた部分は政府が面倒を見ればよいのだ。地方の郵便局が廃止されたら税金で運営すればよい、というのはこの考え方に基づいている。

ちなみに、もっと細かい議論をするなら、「経済の歪みを正してそこで生まれた弱者に税金を投入するよりも、歪みを放置した方が社会的なコストが小さい」といった主張も可能だ。ただ、第1回で書いたように、これとまるで正反対の議論を組み立てる事も容易であり、どちらが正しいかを判断する事は非常に難しい。水掛け論が約束された議論だと言っても良い。そんなことに無駄な時間を費やすよりも、まず一般論としての「民営化による効率化」という考えを尊重した方が議論はすっきりする。


改革の重み

ついでなので、少し幅広く改革の話をしてみたい。今「郵政よりも年金問題の方が大切だ」とか、いやその逆だ、とか、色々な意見が飛び交っている。まぁ、年金問題も大切だというのは当たり前の話であって、誰も反論はしないだろう。しかし、郵政と年金どちらが大切かなどという問いはナンセンスでしかない。「戦闘機1機分のお金でアフリカの子供達10万人にワクチンの接種ができる」という、昔共産党が好んで使っていたお題目と同じくらいにナンセンスだ。2つの問題両方を測ることができる評価基準が無い以上、どちらがより大切かなどという議論が成り立つはずが無い

どちらも大事なのだから両方語ってくれよ、というのが選挙民としては当然の希望であり、それをどの政党が満たしていたのかについてはここでは考えない。多分どの政党も満たしては居なかったのだと思う。まぁ、どんな時でも人々は限られた時間と限られた情報、限られた能力で決断をしなければならないわけであり、この点で完璧ではなかったとしても、我々は適当に類推しながら判断を下さなければならないのだが。

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Comments

今回、極端に時間がなかったので文章の端々に乱れがあったり文脈に混乱や重複が残っています。ごめんなさい。

内容的にも当初書こうと思っていた内容の半分程度になってしまいました。

Posted by: 馬車馬 | September 09, 2005 at 10:28 AM

お疲れ様です。
少々の文章の揺らぎは、内容を求めている閲覧者にとっては些細な問題ですので、大幅に意味を取り違えそうな言葉遣いさえしていなければ問題ないと思いますよ。
それよりも、トラックバックされてる先のサイトの、脳内が沸騰でもしてるかのような内容の方が気になって仕方がありません。

Posted by: くれふ | September 09, 2005 at 09:15 PM

短期集中連載お疲れ様でした。
こればっかりは、選挙が終わってからでは意味ないですからね。
次回に向けてゆっくりと充電期間を取って、またのエントリを楽しみにしています。

定額貯金の話は面白かったです。
高校生の頃、こづかいを千円づつ貯金していました。
「なんで郵便貯金にしか(定額貯金が)ないんだろう?」
などと漠然と考えていた記憶があります。
貯金は商品である、という至極もっともな事にも
意識していないと気づかないものですね(わたしだけ?)。

今度の選挙どちらが勝つにせよ、政治が大きく変わるきっかけになればいいのですが。

Posted by: はりぼで | September 09, 2005 at 11:51 PM

はじめまして。

固定資産税ですが、固定資産税の二分の一相当額を各市町村に払っているのでは
ありませんでしたっけ

ソースが赤旗なのはお許しください。

>固定資産税は、「特殊法人のうちで最も公共的性格が強い」という理由で、
>郵便局舎については固定資産税相当額の二分の一になっていますが、
>ほかの建物などは全額を市町村に納付しています。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2005-09-08/2005090802_01_0.html

Posted by: かまど | September 10, 2005 at 12:52 AM

 連載、お疲れ様です。
 当初の予定回数には届かなかったようですが、個人的には第2回の衝撃だけでも十分以上の価値があったと感じています。

 大枠は大枠として整え、細部は大枠の下で詰めていく。最初から細部に焦点を当て、大枠を歪ましてしまうと、結局は上手くいかない。仕事でも生活でも、ごく当たり前のこととして知っている筈が、良く忘れてしまって失敗する事柄ですね(苦笑)。

 「郵政事業は民営化すべきだ」というのは昔から考えていましたが、多分に観念的であったのが、今回の連載でだいぶ具体的な問題と捉えられるようになったように思えます。

Posted by: 居眠り中 | September 10, 2005 at 10:06 AM

年金問題にしろ何にしろ、結局「財源」の問題に行き着くわけで、
そういった意味でも郵政民営化によって売却収入が得られれば
大変大きなプラスになりますね。
民主党案の郵貯は削減、郵便は公社として残すという案は
郵便サービスが守られる安心感があるという以外に何ら
プラスの要素が見当たらないように思うのですが。

それに、実際のところ、郵便局の業務のかなりの部分をコンビニに委託しても成り立ちますし、これだけインターネットなどが普及すればそういう意味でも
必要性は薄れてきつつあります。
私が2年前から住んでいる村(海外ですが)では郵便局が数年前に廃止されましたが、郵便局員が毎日配達しにくるので、その際に郵便貯金の出し入れもできます。

ところで最初に書きました「財源」の問題ですが、以前財政が赤字になっても日銀が札を刷って返せばよい、という意見に対して、それは「インフレ税」という形で資産を保有している者が払っているという見方を馬車馬さんは示されていました。
しかし、実際には赤字は拡大し続けているにも関わらず、むしろ長年デフレが続いています。
以前、メディアに頻繁に登場している著名エコノミストM氏が、日銀は本気でデフレから脱却する気がないから景気がよくならない、小泉政権は金持ち優遇だからデフレは都合が良いのだ、という意味の発言をしていて非常に違和感がありました。株や土地が下がる状況で金持ちが喜ぶとは、これまた単純な理屈ですよね。一番喜んでいるのは年金生活者だと思いますが。

このへんの事情をまた馬車馬さんに解説していただきたいなあとも思っております。


Posted by: のびい | September 10, 2005 at 06:21 PM

くれふさん、コメントありがとうございます。それからリプライが遅れてごめんなさい・・・

フォローいただきましてありがとうございます。その内容のほうも自分では納得できていないのですが・・・微妙に余ったネタをどうしてくれよう、と(笑)。


TBを頂いた方は・・・うーん、なぜ私のところにTBされたんでしょうね。あんまり関係ない内容だと思うんですが・・・

Posted by: 馬車馬 | September 22, 2005 at 05:58 PM

はりぼてさん、コメントありがとうございます。

私も定額貯金の問題を問題として認識したのは社会人になってデリバティブを勉強してからですね。それまではなんとなく「郵貯って特殊だから」以上の疑問すら抱いていませんでした。

このあたり、金融(というかデリバティブ)に携わっている人であればある程度常識的な話な訳ですが、郵貯が超大口顧客なので銀行・証券サイドからはこういう話は出てこなかったりするわけです。分かりづらくてブログ向きじゃないと思いながらも第3回を書いたのはそんな理由からだったりします。

Posted by: 馬車馬 | September 22, 2005 at 06:07 PM

かまどさん、コメントありがとうございます。

そうだったんですか・・・全然知りませんでした。裏取りをしたいところですがちょっと元気が出ません(まぁ、とりあえず文脈は変えなくてもよさそうですし)。そのうち暇とやる気が出来たら調べて見ようと思います。情報ありがとうございました。

Posted by: 馬車馬 | September 22, 2005 at 06:10 PM

居眠り中さん、コメントありがとうございます。

衝撃とまでおっしゃっていただけるというのは書き手冥利に尽きます。本当は定額貯金の話をもう少し丁寧にやったり、公社3分割の必然性を農林中金の例を引いて説明したり、民営化すべきかどうかで論点となるのはなにかを考えたり、といったネタを考えていたんですが、果たせませんでした。これから書くべきかどうかちょっと迷っているところです。

大枠と細部を分ける、それと半ば以上同じ意味になりますが議論の前提条件を絶えず自覚する、というのはついつい忘れがちになりますよね。だからこそ気をつけたいと思っています。

Posted by: 馬車馬 | September 22, 2005 at 06:27 PM

のびいさん、コメントありがとうございます。

NTTのように、売却収入まで得られれば完璧ですよね。ただ、これも書き損ねたネタなのですが、郵貯をそれなりの値段で売っぱらうのは当面難しいような気がします。彼らの資産運用技術は未熟に過ぎます。国債のほかは地債くらいで、株関連は指定単への預託で自前では株の運用もしていないのではないでしょうか(多分)。企業貸付も当然ゼロですし。むしろ、どう転んでも5年後には税金投入になる気もします。

ユニバーサルサービスのためには公営、というのが原則論を外している、というのは本文で書いたとおりですが、郵便や郵貯は「全国どこでもお届けします」ということそれ自体が価値である以上、JRなどと違って「赤字だから路線廃止」という流れにはならないと思いますね。また、のびいさんもご指摘の通り、ユニバーサルなネットワークを維持するためのコストも電車などに比べれば格段に低いですし。

デフレが進むとインフレ税がマイナスになり、時価評価上政府から国債保有者への所得移転が起こります。まぁ、それが赤字の主因というわけではありませんが。

インフレ税を納付させられるのは物価が変化しても価格が変化しない類の資産を持っている人だけです。具体的には現金と債券の保有者ですね。株や土地は当然物価上昇とともに価格も上昇しますので、インフレ税の対象外です。ある意味、インフレ税はカネを溜め込んでいながらリスクを取って投資しようとしない臆病者(笑)に課税する、と言えるかもしれません。そういった事情を全て捨象して金持ち優遇、というのはちょっと、という感じですね。

分かりやすく説明するためには部分的に間違った説明をするのは必要なことだと思いますが、その「間違い方」に書き手の、書いている内容に対する誠意が問われるのだと思います(読み手への誠意ではなく)。

このあたり、インフレターゲットの話と絡めていつか書きたい所ですが、一体いつになることやら・・・

Posted by: 馬車馬 | September 22, 2005 at 07:02 PM

馬車馬さん

まず現在の段階で外部から資金運用のプロを引っ張ってくるとか、
必要な事がたくさんあるわけですね。
経営形態の議論だけではなくて中身も相当改革しなければ
ならないということですね。

Posted by: のびい | September 29, 2005 at 03:54 AM

のびいさん:

まず、直接金融で食っていくのか、間接金融も手がけるのかと言う戦略判断が必要です。ただ、企業貸出でもうけを出すまでには10年くらいかかりそうな気もします。直接金融だけでやるなら急いで資金規模を減らす必要がありますが、資金規模を減らすと折角の全国決済ネットワークが無駄になります。

決済ビジネスは利益が出せると言われていますが、それは「より低利で資金調達が出来る」という形で利益が出せるものとされていたはずなので、これ単体で儲けるのは難しいかもしれません。

本来、出口改革であった財投改革と同時に郵貯も改革されるべきだったのですが・・・そうすれば、7年間おこずかいをもらいながら経営改革が実行でき、そろそろそれが軌道に乗った姿を見ることが出来たのでしょうが。全ては後の祭りです。20世紀の頃から郵貯はなんとかした方がいいと思っていた者としては(商売柄大声では主張できなかったのですが・・・)歯がゆいですね。

Posted by: 馬車馬 | September 30, 2005 at 06:41 PM

馬車馬さん

素人なのでよく理解してなくてすみません。
直接金融というのは預貯金のようなものではなくて株式投資などを
言うのではなかったでしょうか。

そうではなくて郵貯が、直接企業に貸し出すのを直接金融、
証券などに投資をして儲けをだすのを間接金融、という意味でお使いになっているとしますと、確かに直接金融は顧客を地道に増やさなければいけないので時間がかかるという事は理解できます。
そういう意味では間接金融が中心になると思います。
これは資金さえあれば、あとは人材をいかに引っ張ってくるかの勝負に
なるのではないでしょうか。
しかし、そのためには公務員的な給与体系ではとても
難しいでしょうね。。

Posted by: のびい | October 01, 2005 at 10:35 PM

のびいさん、ごめんなさい。言葉をいい加減に使いすぎました。上のコメントの直接投資は証券投資、間接投資は融資業務にそれぞれ置き換えさせてください。

融資はノウハウとデータの蓄積に時間がかかり、証券投資は資金規模が大きくなるほど運用が困難になって利益率が下がりやすい、という意です。どちらにしても、人材を一から育成する余裕などあろうはずもありませんから、どっかから引き抜いてくる必要があると思います。民営化があと5年早ければ、どっかの銀行を買収する手もあったはずですが・・・

Posted by: 馬車馬 | October 03, 2005 at 08:01 PM

Your first concern is to realize tao of badass make out phrase that love should be only the others upon whom religions have been distant ever since. As a counselor who is having the courage to explore.

Posted by: tao of badass cliff notes | September 26, 2015 at 06:13 PM

Outstanding post however I was wondering if you could write a litte more on this topic? I'd be very grateful if you could elaborate a little bit further. Kudos!

Posted by: M88 | October 09, 2015 at 11:56 PM

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