利息制限法を巡るあれこれ
インフレターゲットネタとかヨーロッパのネタとかを積み残しつつ、まるで関係ない話を(手軽に書ける話優先ということで)。
もう数ヶ月前の話になるのだが、ふぉーりん・あとにーの憂鬱他多くのブログで利息制限法が話題に上っていた。要するに、サラ金その他の消費者金融に対して、「法で決められた上限金利を超える金利を要求してはならない」、とした最高裁判決は正しいのかどうか、という辺りから始まった議論であるらしい。議論の経緯や各リンクはこちらにまとめられている。
詳しい話はリンク先に譲るとして、確かに消費者金融の金利というのは高い。少し前までは実質的に40%が金利の上限だった(今は30%前後)。金利30%ということは、3年借りれば元本の倍を返済せねばならないわけで、今100万円を用意できない奴が3年以内に200万円を用意できるの?という疑問は当然でてくるだろう。で、きつい借金の取立てが社会問題になってもいるし、この上限金利を15%に(実質的に)引き下げましょう、というのが今回の判決の趣旨であるようだ(注1)。
利息を制限するとどうなる?
一見それほど悪い話でもないように見える。「法外に高い金利をふっかけて借り手を追い込むサラ金業者の行動は規制されてしかるべき」という意見は当然ありうるだろう。しかし、実のところ話はそう簡単でもない。以下はbewaad氏やnight in tunisia氏の主張を筆者なりに適当にまとめたものになるのだが、利息に厳格な上限を設けると色々な弊害が生まれる。
まず、「借りたくても借りられない」人が増える。そもそも、貸出金利というのは「リスクフリーレート+リスクプレミアム」で成立する。リスクフリーレートというのは、「絶対に倒産はありえない」貸出先に対して要求する金利のことだ。日本政府というのはこの点まず倒産はしないと思われているので、リスクフリーレート=国債利回りになる。一方で、消費者金融の借り手は政府と違って破産したり夜逃げしたりする恐れがあるので、その分金利を高く設定しなければならない。例えば、破産する確率が20%の人がいたら、金利も20%ポイント高く設定しなければならない(20%の確率で破産する人が5人いると、そのうち一人は破産して借金を踏み倒されてしまう。しかし、この5人から金利として20%ずつ受け取っておけば、20%×5=100%となって、踏み倒された借金を穴埋めできるのである)。更に、破産されたり夜逃げされたりすると、それを追いかける取立人の人件費もかかるので、そのコストも金利に上乗せしておかないと割に合わない。これらの「金利の上乗せ分」がリスクプレミアムである。
ここで、とりあえずリスクフリーレート=0%、上限金利は15%とすると、取立てのコストを無視しても、破産確率が15%を超える人は一切借金が出来なくなってしまうのである。業者から見て彼らに15%の金利で貸すのは全く割に合わないからだ。こうなると、破産確率が15%以上ある借り手は困ってしまう。彼らがカネを借りるには、もはや闇金融しか残されていないのである。
もうひとつの問題がこの闇金融だ。サラ金業者を規制しても、彼らから借りられなくなった借り手が大挙して闇金融に殺到してしまっては元も子もない。借り手保護のための利息制限法がまるで逆効果になってしまうのだ。
そんなわけで、「金利の設定には制限を設けず、市場メカニズムに委ねた方が良い」という意見が出てくる。実のところ、筆者の意見はこれとは異なる。結論を先に書くと、「そもそも貸出金利の設定には(一般的な意味での)市場メカニズムは働いておらず、それを制限することが即市場メカニズムを縛ることにはならない」ということになる。以下、説明したい。
利息制限の要らない企業金融
まず考えなければならないのは、この利息制限法というのは消費者金融だけを対象にしているということだ。つまり、消費者金融以外の業態、つまり企業金融や国家金融(sovereign debt)では、貸出金利がうなぎ上りになって借り手が泣く、という事態は起きていないということになる。実際、ジャンクボンド(格付けがBB以下の投資不適格債のこと。これをエマージングマーケットボンドと言い換えたウォール街のセールスマンは天才だと思う)の表面利率はせいぜい10%かそこいらだったはずだ。よほどひどい投資環境であっても、30%を超える金利にお目にかかることは滅多に無い(注2)。日本でも、BB格の社債金利スプレッドは1%ポイントを超えることは現状では無いのだ。
こうなる理由は色々あるのだが、常識的には、20%や30%もの高金利が必要な危ない貸出先には、銀行も投資家も資金を出したがらないからだとされている。では、なぜ銀行や投資家は高金利でリスクの高い企業に貸すのを嫌がるのだろうか?上でも書いたように、例えリスクが高くとも、それに見合うリスクプレミアムが得られれば別に問題ないはずではないか。
ここでネックになるのが、企業金融の有限責任性である。銀行だろうとなんだろうと、貸し先の企業が倒産してしまったら、もうそれ以上は借金を取り立てられない。残った資産を競売にかけていくばくかのお金を得るのがせいぜいだ。これを少し具体的に考えてみよう。
今、ある企業が金利40%で1億円を5年間借りようとしているとする。金利が40%で5年満期だと、ざっと元金の3倍を返済することになる。もし1億円を借りて、5年間で3億5000万円の収益を上げ(収益率50%)、3億円を返済すると手元には5000万円が残ることになる計算だ。ここでちょっと才知のある、またはちょっと良心の足りない社長なら、多分こんなことを考えるだろう。「5年間必死に働いても手元には5000万円しか残らない。だったら、最初に借りた1億円を投資したことにしてそっくり着服し、5年後に「投資に失敗しちゃった」と頭をかいて会社を潰してしまえば、1億円を儲けることが出来る。こっちのほうが有利だ!」と。
つまり、金利を上げすぎてしまうと、企業の偽装倒産の確率を高め、結局貸し手の利益が低下してしまうという現象が起こるのだ。上の例でいくと、この会社の偽装倒産を防ぐには、金利は30%以下でなければならない。金利が30%だと、着服して夜逃げしてもまじめに働いても、同じ金額の儲けが出る。この30%が、貸出金利の上限になるわけだ。
貸し手が借り手企業の行動をちゃんと把握できず、かつ倒産した企業からそれ以上カネを搾り取ることが出来ない場合、別に法律で規制せずとも、貸出金利には自動的に上限が出来ることがこれで分かる。この上限以上の金利が必要な貸出先には、誰も金を貸さない。だから、企業金融の世界ではやたら高金利な案件にお目にかかることは少ないのだ。
「自動的」上限金利が生まれない世界
では、なぜ消費者金融ではこのような上限金利が自然に生まれてこないのだろうか。別に企業でなくても、「こんなに高い金利は払えっこないし、最初から踏み倒して夜逃げしちまえ」と思う消費者がいたっておかしくないはずだ(というか、実際にたくさんいるわけで)。とっとと裁判所に駆け込んで破産してしまえば、かなりの高確率で債務の免責も受けられる(犯罪がらみは別。ギャンブルでも駄目なケースがある)。それでも高金利で(極端な話、トイチ=年率複利3142%で)貸しているということは、貸し手は企業金融では使えない何らかの方法で、借り手に返済させる手段を保有しているということに他ならない。言い方を変えると、借り手を脅す方法が企業金融に比べてたくさんあるということだ。
合法的な方法としては、借り手を「勤め先から追い出す」こと。給料を差押さえてしまえば、大概の場合会社はクビになる(そうなると退職金まで差押できるので更においしい)。更にナニワ金融道的なノリで行けば、家族を連帯保証人にしておけば家族関係それ自体を担保に出来る。「返済しないと暖かな家族の団欒は二度と戻ってこないでしょうなぁ」とか。更に、微妙に非合法だが自宅の前で「カネ返せ」とか毎日叫んでいれば近所関係もずたずただ。もっとマンガ的だが、借り手が女性なら風俗産業という手もあるし、返さないんなら簀巻きにして東京湾に沈めるぞと脅す手もある。所詮はバーチャルな存在である企業と違い、個人には担保になりうる無形の資産(人間関係から命そのものまで)がたくさんあるのだ。だからこそ、消費者金融は安心して破産確率が高い人にも(高い金利で)お金を貸すことが出来る。消費者金融に「自然発生的な」上限金利が存在しないのは、これらの無形資産を担保に取っているからなのだ(注3)。
問題なのは、このような無形の資産を奪うことはどこまで法的・社会的に許されるのか?ということだ。命を奪うのはどう考えても許されないし、「じゃぁ腎臓売れや」というのも臓器売買が非合法である以上は駄目だろう。しかし、このような無形資産を担保に出来るから業者はリスクの高い人にも貸しているわけで、「厳しい取立てをしてはいけません」といって「担保に出来る無形資産」を制限すれば、リスクの高い人に貸すことは不可能になる。その結果、消費者金融にも上限金利が自然発生することになるわけだ。
つまり、借金の取立てを制限することと、貸出金利に上限を設定することは、経済的に見て同義なのである。貸出金利に上限を設定してしまえば、そもそも厳しい取立てが必要なリスクの高い借り手に貸し出しが出来なくなるため、結局厳しい取立てそれ自体が不要になる。
こう考えると、貸出金利に上限を設定するというやり方は必ずしも悪いやり方ではない。もちろん、「違法な取立て」をひとつひとつ摘発していっても良い。結果は同じことだ。ただ、個別の取立て行為の違法性を立証するのは恐らくかなり難しい。どのくらいの大声で怒鳴ったらいけないのか?「悪質な取立て」をどう定義できるのか?という問題は絶えず付きまとう。それならば、「この金利を上回ったらとにかく駄目」と規制を敷いてしまったほうがずっと分かりやすいだろう(注4)。
まぁ、みんなが借りた金をちゃんと返していれば、それで済む話ではあるのだが。
本日のまとめ
サラ金の貸出金利は確かに高い。そこで、最近この金利の上限を厳格に設定するという判決が出た。
通常の経済学的な考え方だと、「金利設定は民間に任せておくのが一番良い」という結論になるが、これは借り手が借金を踏み倒して夜逃げしたりしない、という前提条件があっての話。
夜逃げや倒産を阻止しようのない企業金融では、貸出金利を余り高く設定できない。金利が高くなればなるほど、借り手にとっては借金踏み倒しの誘惑が大きくなるため、金利が高すぎるとかえって倒産確率が上昇してしまう。そのため、企業金融では上限金利が自然に発生している。
一方で消費者金融の場合、借金の踏み倒しを防ぐ手段がたくさんある(企業と比べ破産によって失うものが多い+取立てを厳しくすることで踏み倒しの誘惑を抑止可能)ため、上限金利が存在しない。逆に言うと、高い貸付金利は厳しい取立てによって支えられている。
もしこの厳しい取立てが違法ならば、高い貸付金利も違法だということになる。よって、貸付金利に上限を設定することで、違法な取立てを抑制することが出来る。
注1:厳密に言うと、出資法で定められた上限金利が29.2%、一方で利息制限法で定められた上限金利が15%(共に遅延損害金を考慮に入れない場合。延滞すると金利が5割増しになる)となっている。前者の上限金利を破ると5年以下の懲役だが、後者には罰則がない。そのため、いわゆる消費者金融系の会社は利息制限法の上限金利を無視して出資法上の上限29.2%を採用して金利を決めているのが実態。
それを、今後は利息制限法の15%を厳格に適用していきなさい、というのが今回の最高裁の判決である、らしい。法律だの判例だのはどうも苦手なので、より詳しい話はリンク先を参照。
注2:念のために書くと、これは企業や国家が新規に資金調達をするときの発行利回りの話。倒産直前の会社の既発債は額面の20%とかで取引されることも良くある(残存1年として約400%の金利になる計算。ただ、普通こういう世界ではだれも金利を気にしない)。これはあくまでも流通利回りの話であって、本文で扱っている発行利回り(資金調達金利)とはまるで違う話。
また、発行利回りが30%を越えるケースでは、インフレに伴ってリスクフリーレートが高い水準にあることが多いため、必ずしもリスクプレミアムが高くなっているとは言えない。
注3:通常、土地などを担保に入れた場合その分貸し倒れのリスクは下がるので、貸出金利は低下する。しかし、このような無形資産は貸し手にとっては何の価値もないため(命を奪ったところで貸し手は一文の得にもならない)、担保は「より破産確率の高い人にも貸せるようになる」効果しかない。その結果、上限金利は無形資産が多いほど上昇していくことになる。
注4:ただし、一方で「どの程度の上限金利を設定すれば違法な取立て行為をなくすことが出来るのか?」「借り手によって、返済を迫るのに必要な取立ての厳しさは違うのだから、「合法的な」上限金利もまた人によって異なる。それを一律で規制してしまうのはよくない」という問題が出て来る。これも非常に難しい問題だし、こちらの問題を重く見て上限金利に反対するという論調はあって良いと思う。ここでは借り手の個人差は問題にするほど大きくないと仮定し、違法行為を認定するときのコストがはるかに小さくて済むというメリットを重視している。また、上限金利の15%が正しいかどうかも、ここでは議論しない(水掛け論にしかならないので)。


Comments
ここで年利108%というトンでもない高利貸しの質屋が来ましたよ。もちろんお店や貸付額によって差はあるのですが、安くても月6%は取ってます。数千円〜数万円程度の少額を短期で貸し付けるケースが多いのと、取り立てや督促が無く今まで特に問題にならなかったので毎年「高いんぢゃない?」と言われつつも我々の業界だけは利息制限法の外に置かれています。
そんな質屋でも平均してだいたい20%〜多い店でも30%の質草は流れます。サラ金の貸し倒れ率と比べてどうかは不勉強なのでわかりませんが、諸々の経費を考えると月6%くらいが妥当でしょうかねぇ。やはりこの業界も高く貸せば貸すほど流質リスクが高まります。何せ1年借りっぱなしだと支払い金利が元本超えますからね。
業界的にいつか制限が入るのはやむを得ないという認識が年々高まっています。貸し付け総残高が1千万以下の小さいお店が今の代だけで店じまいしてしまうケースが多い反面、多店舗展開を目指す大手質屋や全国展開しているリサイクル屋がそれらを吸収してきてだんだん2極化してきています。かつてサラ金業界に利息制限がかかってから業界構図がすっかり大手一色になってしまった様に、質屋の世界も将来的にそうなりそうな悪寒です。話題にされている市場金利とはあんまり関係ない話しですが、いちおうその末席からでした。
Posted by: 質屋丁稚1号 | May 21, 2006 at 08:02 AM
企業金融において上限金利が自動的に発生しているのは、貸し手が借り手企業の行動をちゃんと把握できないためであり、他方の消費者金融において上限金利が自動発生していないのは、借金の踏み倒しを防ぐ手段がたくさんあるから。とされていますよね。このことをもって、消費者金融市場には一般的な意味での市場メカニズムが働いていない、とすることが腑に落ちません。
その点だけをとれば、むしろ企業金融の方が、情報の対称性が損なわれていて市場メカニズムの働きを不十分にしているように思います。(返済能力の審査等を含めれば全体的には消費者金融の方が情報の非対称性は大きいのでしょうが、計画倒産を防げるかどうかに限った場合)
この部分、補足いただけるとありがたいです。
Posted by: 無業者 | May 21, 2006 at 09:48 AM
細かい話ですが、
>例えば、破産する確率が20%の人がいたら、金利も20%ポイント高く設定しなければならない
ここは、「金利を25%高く」だと思います。
1人が逃げた分の穴埋めを残りの4人でするわけですから、一人当たりの持分は25%のはず。
Posted by: らいあ。 | May 21, 2006 at 12:15 PM
「借金の取立てを制限すれば、貸出金利に上限が生まれる」というのは理解できるのですが、それだけでは「貸出金利に上限を設定すれば、借金の取り立てが制限される」とは言えないと思います。
貸出金利に上限が設定された場合、貸し出し業者としてはそれを上回るリスクプレミアムを持つ客には貸さないという選択肢だけではなく、強引な取り立てで踏み倒しの確率を低くしてリスクプレミアムを下げるという選択肢もあるので、結局後者を選んで強引な取り立てを続ける業者は出てくると思うのですが。
Posted by: Baatarism | May 21, 2006 at 12:59 PM
横から失礼。
>強引な取り立てで踏み倒しの確率を低くしてリスクプレミアムを下げるという選択肢もあるので、
これは「強引な取立て」の程度も法律で規制すれば、貸し出し金利に上限が設定されるということではないでしょうか。極端な話、簀巻きにして東京湾に沈めるぞ、なんてことは実行したら違法でしょうし。
ところで本文からは、上限金利を低くすると闇金に流れる消費者が増えるかもしれないという懸念に対しての回答が読み取れませんでした。このあたりどのようにお考えかもう少し詳しくお願いしたいのですが。
Posted by: tackman | May 21, 2006 at 02:52 PM
質屋丁稚1号さん、コメントありがとうございます。
こういう自分の知らない業界話は大好きなので、大変ありがたいです。確かに、短期・小額の貸付は長期のそれとは分けて考えないといけないですよね。利息制限法でも短期小額の場合は20%でしたっけ。この辺はもっと柔軟に上限を設定してもいいような気がします。しかし、質屋さんは例外扱いというのは面白いですね。確かに、鑑定コスト、質流れ品の掛け目の問題、その後の小売コストと、一般の消費者金融に比べて特殊な面が多すぎるような気もします。
流質リスクってやっぱり結構高いんですね・・・。貸付の平均満期が3ヶ月で、流質リスクが25%とした場合、それだけで年率のリスクプレミアムは概算で25x4=100%必要になる計算ですから、月利に換算して8-9%。一方で質という担保を抑えているので、鑑定・在庫・小売のコストを差し引いた上での掛け目を5割とすると、4-5%ですか。それに利益を乗せたら6%くらいはいきそうな感じですね。素人考えですが。
逆に言うと、サラ金で同じくらいの破産リスクがあった場合、年率30%の金利では割に合わないこと甚だしいわけですよね。実はサラ金って安全な人に貸してるんでしょうか。彼らだって担保はそれなりに抑えているでしょうが、質屋さんほどのカバー率があるとは思えませんし・・・。
確かに、規制が強まるほど大手有利になる、という構図はありそうな気がします。個々の借り手から得られる利益が頭打ちになる以上、リスクマネージメントとコストマネージメントが勝負になってきますから。金融業というのは基本的に「大きくなるほど有利」な業態ですし(色々な人に貸すことで、貸し倒れリスクを分散できる→個々の貸し倒れに一喜一憂しなくて済む)。今回の判決で「15%以下は銀行系、それ以上はサラ金・信販系」という住み分けが壊れてしまいそうですから、後者の業態の人たちにとってはかなりキツい話なんでしょうね・・・(例のバッシングの件も含め、少し同情しています)。
Posted by: 馬車馬 | May 21, 2006 at 10:23 PM
無業者さん、コメントありがとうございます。
まず、企業金融でも消費者金融でも、ご指摘のとおり非対称情報の問題が等しく存在します(消費者と企業のどちらがより不透明かはよく分からないので、イコールということにしておきましょう)。
これが「自然な」上限金利の設定という形で現れてくるわけですが、消費者金融の場合さまざまな「脅し」によってこの上限金利の問題を「解決」し、より多くの人にお金を貸すことが可能になっています。ここでは前述の非対称情報の問題が解決されたわけではなく、語弊を恐れずに言えば「市場のゆがみを更なるゆがみで矯正している」ことになります。つまり、消費者金融の世界で市場原理が働いているかのように見えるのは錯覚に過ぎません。
もし、この「更なるゆがみ」が十分に適法であるならば、この錯覚と実態の違いについてあれこれ文句をつける必要は無いのだと思います。しかし、昨今指摘されるように、これら(例えば、東京湾に沈めるぞ、といった脅し)が違法なものであるなら、われわれは改めて非対称情報の問題を直視した上で「望ましい市場メカニズム」を考える必要があります。そこで市場が導き出した答えが「自然な上限金利」の設定であり、それを超える金利が必要な人には貸さない、という信用割当のメカニズムです。消費者金融の性格から言っても、信用割当のメカニズムのほうが私は妥当なのではないかと思います。
Posted by: 馬車馬 | May 21, 2006 at 10:34 PM
らいあ。さん、コメントありがとうございます。
ご指摘の点は全くおっしゃるとおりで、とりあえず「倒産確率≒リスクプレミアム」になることを示すためにちょっと誤魔化してしまいました(まぁ、5人ではなく100人とかであればほとんどイコールになりますし)。それで、『この5人から金利として20%ずつ受け取っておけば』と、あらかじめ利払いを受け取っているというちょっと特殊な状況を想定したわけです。
敢えてこじつけますと、割引債を想定している、と言ってもいいかもしれません(そうするとまた別のところで細かい齟齬が生まれるのですが)。
Posted by: 馬車馬 | May 21, 2006 at 10:41 PM
Baatarismさん、コメントありがとうございます。
まず、リスクプレミアムですが、本文ではこれを2つのリスクの合計として(暗黙のうちに)扱っています。まずは、自然な破産確率(まじめに返済しようとしていても破産する確率)。もうひとつが偽装破産を試みる確率です。本文の数値例では単純化のために前者を無視して説明していますが、ゼロではありません。ここで、もし貸付金利が高すぎると、偽装破産確率が上昇します。するとその分リスクプレミアムも引き上げざるを得ませんが、この貸付金利の上昇が更に偽装破産確率を高めます。このいたちごっこの結果、金利は無限大に発散します。その意味では、上限金利が存在するというよりも、一定水準を越えると貸付金利を無限大にする必要がある、という理解のほうが正確かもしれません。
そんなわけで、自然破産確率が一定以上に高い(=貸付金利が高い)と、偽装破産確率が上昇を始めてしまうので、それ以下の金利で貸せる人にしか業者は貸さなくなる、というのが上限金利のメカニズムです。消費者金融の場合、各種の有形無形の脅しの結果、偽装破産確率が上昇を始める金利水準を引き上げることが出来るのだ、というのが本文の主張です。つまり、自然破産確率が高い人も借りられるわけです。このとき、企業金融であろうと消費者金融であろうと、貸金契約が成立したときには偽装破産確率は必ずゼロになっていることに注意してください(そうでないと、いたちごっこが始まって金利が発散します)。
そして、いくら取立てをきつくしても自然倒産確率は下げようがありませんので、上限金利の設定によって取立てが更にきつくなる、ということはちょっと考えにくいように思います。
Posted by: 馬車馬 | May 21, 2006 at 10:59 PM
tackmanさん、コメント&フォローありがとうございます。
すみません、闇金融の話はネタをふっておきながら省略してしまいました(自主的字数制限に引っかかってしまいましたので・・・というか、A4で4枚以上ってのは長すぎですよね。しかも内容はとっつきにくいですし、読み通してくださった方にはただ感謝です。その上これほど鋭いコメントの数々がいただけるとは思ってもいませんでした)。
で、闇金融なのですが、今回金利の上限が30%から15%になったわけですから、この「15%から30%の間で借りられた人たちが今後どのような行動をとるか」だけが問題になります(他は変化なし)。
闇金融というのは取り立てにおいて法的な支援が一切期待できない業態ですから、取り立てコストが異常に高くなります。質屋丁稚1号さんのコメントから、質屋ですら年率100%なわけですから、闇金融の利率はこれを大幅に上回る必要があります。つまり、上の借り手グループの人たちがそれでも借りたいと思うなら、金利は最低でも10倍、トイチなら100倍を払う必要が出てきます。それでも躊躇無くお金を借りてしまう人たちが上のグループの中にどれだけいるか、が問題になるわけです。
言い方を換えれば、正常な判断力を失っている人がどれだけいるか、ということでもあります。心情的には、そんなお馬鹿さんは東京湾に沈んでくれと思わないでもないですが、もしそういう人が多数派であるなら、違法行為を掣肘した結果逆に深刻な違法行為を助長する結果になり、上限金利の設定は裏目に出ます。ただ、この仮定(このグループの人たちの貸出需要曲線がほとんど垂直であるとする仮定)は流石に極端すぎるのではないかと思います。そもそも、金利がいくらでもいいからとにかく借りたい、というほど切羽詰っている人は、現時点でも30%以下の金利で借りられない可能性のほうが高いと思いますし。
それから、以上の議論は「行政は闇金融に一切干渉できない」という前提条件をおいての話です。上限金利を設定しておけば、これらの闇金融の違法性を立証するのは非常に容易になります(取立ての仕方の違法性を問うよりも、はるかに簡単でしょう)。また、闇金融の資金規模が大きくなりすぎれば、その資金調達の方法が問題になります(金主を叩くというアプローチが可能になりますので)。
そんなわけで、闇金融の問題はそれほど深刻にならないのではないかと私は考えています。付け加えますと、これは理屈ではないのですが、低金利で借り始めてずるずる高金利の借金に手を伸ばす、というケースも多い気がしますし、そういう人は極力早い段階で金融市場から叩き出した方が良いのではないかとも思うわけです。
Posted by: 馬車馬 | May 21, 2006 at 11:25 PM
TBありがとうございました。
おそらく馬車馬さんの「上限金利規制=取立規制」という図式に乗った上で、政策選択問題として最初に生じる疑問は、一律事前規制(上限金利規制)よりも事後規制や手段規制(取立規制)の方が原則としては望ましいはずなのに、何故前者を選択するのかという点だと思います。私を含め、上限金利規制反対派の論拠の一つは、一律事前規制は返済可能な人に対するクレジット・アクセスも閉ざしてしまうい不可避的に厚生損失を伴う点で、事後規制や手段規制に劣るというところにあります。
もう一つは、現在15-30%でクレジットにアクセスしている人々へのクレジット・アクセスが閉ざされてしまうという点については、①あきらめるか、②闇金融に走るか何れしかないわけです。②については、私自身は、理論的にみれば、ヤミ金融資上が拡大する可能性は十分にあると思っていますが、その点をひとまず措いたとしても、①のあきらめざるを得ない層をどう考えていらっしゃるのかに興味があります。
こうした高利で借りざるを得ない層の多くは、貯金もそれほどなくクレジットによる収入変動の緩和が非常に重要なわけですし、現在でも相当割合は問題なく返済しているわけですが、そうした人々はそもそも早い段階で破産させてしまうのが望ましいということになるのでしょうか?
Posted by: 47th | May 23, 2006 at 01:32 AM
馬車馬さん、解説ありがとうございました。解決されているのではなく更なる歪みが働いているに過ぎない、との御主張、理解できました。
私としては、違法な取立による更なる歪みを問題にするなら、それを抑制するために罰則や摘発を強化するのが良い、と考えています。
しかしながら、どちらが良いかは「適切な上限金利の設定に失敗するコスト」と「個別取締に要するコスト」のどちらが大きいかに依存しますし、適切な上限金利が15%かどうかについては馬車馬さんも「水掛け論にしかならない」と仰っている通り、ここでは結論が出せませんので、この点は良い研究が出ることを待ちたいと思います。
それと、馬車馬さんの記事はいつも読みやすいです。しかも分かりやすく、大変ありがたいです。返答いただいたお礼に併せて、日頃の感謝も申し上げます。
Posted by: 無業者 | May 23, 2006 at 02:06 AM
47thさん、コメントありがとうございます。
前半部分についてですが、取立規制であればwelfare lossがないという主張は、対称情報市場か、または非対称情報市場だが厳しい取立と返済額には何の相関もない市場か、どちらかが暗黙に仮定されているものだ、というのが本文での主張になります(個人的には、どちらもあまり現実的ではないように思います)。本文で仮定したとおり、厳しい(違法な)取立が借り手のモラルハザードを防いでいるという状況を考えるならば、そのような取立行為の禁止は信用割当を悪化させ、同時に上限金利を引き下げます。つまり、非対称情報下では金利規制と取立規制は同値であり、取立規制ならば社会厚生を損ねないという議論は成り立たない、というのがエントリーでの主張です。同値であるなら、より透明性の高い手段を選んだ方がよかろう、と(ただし、その結果別次元での不透明性を高めることは注4で書いた通りです。このような観点からの取立規制の優先はありうる議論だと思います)
後半部についてですが、闇金融に走る可能性が高いというのはどのような借り手を想定されておられますか?どうも私は貸出需要曲線が垂直な人というのは直感的にぴんときませんもので・・・(もう正常な思考能力を失った人でもない限り、垂直にはならないと思うんです。ただし、これは上のコメントで想定したとおり、闇金融の金利が年率100%を軽く上回る高利であることを仮定した議論です)。
最後の部分についてですが、取立規制であっても15-30%の人たちは借りられなくなるので同じ、というのが私の主張になりますが、とりあえずそれは措いておきましょう。
試しに、数ヶ月に1度しか収入がなく、その間の生活費は借金でまかなうしかない、という人を想定します。このような場合、収入が入るまでは借りて収入とともに返済して借入額の枠を空け、また次の収入まで借りる、というパターンで消費の平準化が起こります。しかし、これはきわめて非効率な消費スタイルです。もし一番最初に最低限の種銭が用意できているなら、高い金利を払ってまで借りる必要など一切ありません。もし、数年かけてこつこつ貯金して、それでもその程度の種銭が溜まらない程度の収入であるならば、間違いなく生活保護の有資格者であると思います。また、今破産して免責を受ければ、返済原資がそのまま種銭になりますので、その人の生活はそこで安定し、借金生活に戻ることはなくなります。
一般的には流動性制約の存在は社会厚生を損なうとされていますが、それは流動性制約の排除にかかるコスト(この場合、金利)を無視しているから成立する議論だと思うわけです。
「相当割合はちゃんと返済している」というのはおっしゃる通りだと思いますが、たとえば破産確率を20%とした場合、5年以内にほぼ全員が破産していると読むことも出来ます(そして、色々話を聞く限り、そう捉えた方が現実的であるように思います)。ならば、初期段階でとっとと止めを刺してしまった方が世のため人のため、なによりも本人のためではないでしょうか(止めといっても、ほぼ確実に免責を受けられるでしょうから、救済といった方が近いかもしれません)。
それから、注4でも触れましたが、15%を超えると取立に違法行為が混じり出す、というのは私の勝手な仮定にすぎません。もしかしたら取立規制と同値なのは15%の上限金利ではなく、20%かもしれません。そのあたりは私にはアイデアがありません。少なくとも、30%以下で貸しているサラ金で「違法行為」があったのですから、「自然な」上限金利も30%以下であるとは思いますが。
Posted by: 馬車馬 | May 23, 2006 at 03:37 AM
無業者さん、コメントありがとうございます。ご納得いただけたようで幸いです。
罰則や摘発を強化した方がよい、というご意見には私もかなりの説得力を感じます。15%と20%どちらがよいか、短期少額貸付とそれ以外とで上限金利に差をつけた方が良いのでは、といった微に入り細に入った話を考えると正直うんざりしますし。このあたりは、「制度を決めるまでのコストが大きい上限金利」と、「実行段階でのコストが大きい取立規制」のどちらを取るかですね。なんとなく、お役人も政治家も後者を好むような気がしてならないのですが(笑)。
過分なお言葉、恐縮です。こちらこそディスプレーで読むには長すぎる文章にいつもお付き合いいただきまして、ただ感謝申し上げるばかりです。
Posted by: 馬車馬 | May 23, 2006 at 03:48 AM
お返事ありがとうございます。
一点だけですが、貸倒リスクの存在によって一定の水準で金利が均衡することはStiglitz=Weiss(1981)でも予測されており、仰るように取立規制を厳しくすれば「自ずから」均衡金利水準が低下することは予想されますが、この均衡水準は市場(顧客層、地域)によって異なるため、(そもそも政府が「適正な金利水準」を決定できるかという政府の失敗一般の問題を除いたとしても)単一の上限金利規制でこれを代替することは一般に非効率な結果をもたらすのではないでしょうか。
また、あえて前のコメントでは「上限金利規制=取立規制」の等値を前提しましたが、そもそも論としては、上限金利規制をひいた場合には、定められた金利上限の範囲内で回収率を高めることが消費者金融各社の競争の焦点になってしまうわけですから、取立が厳格化するという方向での均衡も十分にあり得ます。また、仰るような闇金融の闇たるが故のコストは表裏を問わず取立規制の実効性確保のための措置(積極的な警察の捜査・介入)等が前提であって、金利上限規制を敷くことによって、より取立規制のエンフォース面でのコストは高まる(高めなければならない)ことになります。この意味で、上限金利規制を取立規制に代替させることは難しいのではないかと考えています。
以上、長文失礼いたしました。
Posted by: 47th | May 23, 2006 at 06:13 AM
47thさん、コメントありがとうございます。
2つ目の上限規制→取立強化についてはBaatarismさんからも同様の指摘をいただいており、それに対するMay 21, 2006 10:59:25 PMのコメントを参照していただきたいと思います。
ひとつめの点については、「取立規制すれば上限金利が下がり、上限金利を設定すれば取立が自ずと制限されるという意味において、この2つの政策は本質的には等値である(どちらの場合も信用割当が強化される)」という認識が共有されているかどうかで答えが変わって来ます。
もしこの認識が共有されているのであれば、私は47thさんのコメントにはあまり反論できません。私自身も注4で書きましたが、「違法な取立が必要になる金利水準」は人によって異なる可能性があり、これが非常に大きい場合、一律の上限設定は効率的とはいえません(ただし、貸出金額や期間によって上限を変えることで、ある程度は対応できるのではとは思いますが)。一方で、私が本文で述べたようなメリットもあり、どちらを重視するかは人それぞれであろうと思います。このレベルになると、門外漢が議論するよりも実務家の選択に任せたほうが早いのではないでしょうか(May 23, 2006 3:48:05 AMのコメントもあわせてご参照ください)。
つまり、上記の認識が共有されるならば、上限金利と取立規制は実行段階のやりやすさに差異があるに過ぎず、論点としてはマイナーになるのではと思うわけです。
闇金融については、上限金利を設定するしないにかかわらず一定の法規制は存在します。そして、既に現時点でそれらのリスク・コストを織り込んで貸出金利は極めて高い水準にあります。ここから法規制を緩和しない限り、この貸出金利が大きく下がることは無いでしょう(自然破産確率の低い人も流入する結果、若干の金利低下はありえないとはいえませんが、闇金融を使った段階で自然破産確率自体が跳ね上がると考えるほうが自然な気もします。どちらでも議論の本筋には影響しませんが)。とすると、前述の垂直にそそり立った貸出需要曲線をどう正当化するかという難題をクリアしない限り、闇金融の問題はクローズアップしにくいのではないかと思います。
それから、『金利上限規制を敷くことによって、より取立規制のエンフォース面でのコストは高まる(高めなければならない)ことになります』という点が良く分かりませんでした。どのようなメカニズムを想定されてらっしゃいますか?
Posted by: 馬車馬 | May 23, 2006 at 08:07 PM
再度のお答えありがとうございます。
市場規制のあり方としての実体規制とプロセス規制の差は私自身はマイナーだとは思えないのですが、そこはもっと一般的に市場における政府介入のあり方に対する見解の差ということなのかも知れませんね。
最後の部分は分かりにくかったようで、申し訳ありません。一般的に犯罪取締に関しては、認知・捜査・処分の各プロセスにコストがかかるために、一定期間に取締が可能な件数というのは限度があります。私自身は、(この点で馬車馬さんと見解が異なるかも知れませんが)上限金利規制を厳格化した場合には、潜在的な顧客数は増加し、それに対応して闇金融も増加する(母集団が増加する)と考えるので、そのままでは個々の闇金融業者にとっての摘発リスクは低まるため、違法であることの期待コストは減少します。これを埋め合わせるためには、取締への資源投入の増加が必要という趣旨です。
この辺りは、ご指摘のように、そもそも潜在的顧客層の需要弾力性の程度をどう考えるかということになるとは思うので、どちらかというと前提事実の認識の差から来るのかも知れません。
Posted by: 47th | May 24, 2006 at 12:19 AM
47thさん、コメントありがとうございます。
「マイナー」の件ですが、すみません、私の書き方に問題がありました。規制の仕方はマイナーな問題である、というのは、私の問題意識が「どちらの規制のやり方であれ、社会厚生の損失(≒信用割当)は免れない」という点にあるために、規制の制定・実行段階での議論は自動的に「非本質的」になってしまう、ということです。マイナーかメジャーかは議論の焦点をどこに持ってくるかによって変わる話ですから、何の説明も無く「マイナー」と書いたのは私のミスでした。これはあくまでも私の問題意識を前提にしての話です。
より現実的・具体的な政策論として取立規制と金利規制のどちらが望ましいか、という議論はそれはそれで重要なものだと思います。私個人はメリットデメリットの双方があるため、どちらが良いかはよく分かりません。金利規制によるメリットも色々あるよね、と思って本文のような結論にしたのですが、そもそも門外漢の私が何を語ってもいまいち説得力の無い論点かなとも思えまして、あまり深く考えていません。
後半部については、なるほど、貸出需要曲線が垂直に近いことを前提にした議論な訳ですね。それならば納得です。私にとっては少々首肯しかねる前提条件ではありますが、その可能性がゼロだとは思いませんし、そういう観点からの取立規制の優先という議論はありえると思います。
繰り返しますが、私の(闇金融関連の)問題意識は、「金利規制なら闇金融」という考え方は間違いであり、もし金利規制で闇金融が繁盛するなら(信販・サラ金への)取立規制も闇金融へ借り手を追いやるだろう、というものです(闇金融への取立規制が信販会社の規制以上に難しいことを暗黙のうちに仮定していますが、それが無くとも、本質的には同じことです)。
それに付随する意見として、金利規制であれ取立規制であれ、闇金融が繁盛するには貸出需要関数に対するかなり強い仮定が必要だ、と考えているわけです。
Posted by: 馬車馬 | May 24, 2006 at 02:47 AM
議論にお付き合い頂きありがとうございます。
おかげで、論点がクリアーになりました。
一点だけ私の見解について補足ですが、闇金融への移行は、必ずしも「垂直に近い」需要曲線を前提としなくても、ある程度需要が非弾力的であれば生じ得ると考えています。
どの程度の影響があるのかはすぐれて実証的な問題ですが、全面的に依拠するのはどうかというご意見もあるとは思いますが、2000年の上限金利引下げ移行ヤミ金融被害が増加しているという早稲田ペーパーのデータを無視すべきではないと考えています。
Posted by: 47th | May 24, 2006 at 10:15 AM
47thさん、こちらこそお付き合いいただいてありがとうございました。
おかげさまで、私も当初から感じていた違和感をようやくクリアにすることができましたので、以下に改めてまとめておこうと思います。
47thさんやnight in tunisiaさんが依拠しておられるモデルの(私にとっての)最大の問題点は、モデルに取立行動のメカニズムが全く存在していない点にあるように思います。そもそも、今回の議論の根幹には(私の勘違いでなければ)貸金業者による過剰な取立の問題があり、それに対して47thさんは金利規制より取立規制(事後規制・手段規制)で対処すべき、と主張されています。
であるなら、「そもそもなぜ(過剰な)取立が発生し、それがどのように経済に(welfareに)影響を及ぼしているか」がモデルの中に組み込まれていないのは問題ではないでしょうか。最初の方で頂いたコメントで「取立規制は厚生損失を伴わないので望ましい」とおっしゃられましたが、モデルに取立が含まれていないのですからそうなるのは当然です(逆に、取立が更に苛烈になったところで一切厚生損失はないわけです)。つまり、「厚生損失を伴わない」というのはモデルから得られる結論ではなく、単にあらかじめそう仮定しました、と宣言しているに過ぎないのです。
ちなみに、私のモデル(というほど大層なものでは有りませんが)にも問題があります。それは過剰取立が社会的・経済的にどんな問題をもたらすのかが記述されていないこと。そのため、私のモデルの最適解は「過剰取立万歳!東京湾に沈められたって、自分が借りたいときに借りられたんだからハッピーなはずでしょ?ぜんぜん問題無し」になります。それだと議論にならないので、それに法的な制約条件「コンクリに詰めたり腎臓売ったりするのは理屈抜きでとにかく禁止」を加えると、上限金利規制と取立規制が同じ効果を持つ最適解として浮上してくるわけです。
つまり、私のモデルでは「なぜ簀巻きで東京湾がいけないか」は説明できません。とにかくそれはまずいよね、という価値観さえ共有できていれば、私のモデルは機能します。一方で、取立がそもそも存在しないモデルでは、「取立はただの借り手いじめであり、そうすべき理由もなければ、それによる貸し手借り手の行動に対する影響も無視できるほど小さい」という理解を共有せねばなりません。
そこが共有できないために、異なるモデルから異なる結論が導かれたではないかと思いました。
闇金融については、闇金融にシフトしたときの金利上昇の規模によって傾きの影響は変化しますので、結論は出なさそうですね。計量分析でそういう結果が出たのは興味深いですが(どのくらい信用できるのかは分からないのですが)、そうなると次の仕事は「なぜそうなるのか」という理屈づけになると思います。
<一部の表現を微妙に修正しました。5月25日08:40AM>
Posted by: 馬車馬 | May 25, 2006 at 02:28 AM
消費者金融が高金利となっている理由を、リスクプレミアムと見る方が多いようです。しかし、流動性プレミアムが載っているためと考える方が、妥当な気がします。
流動性プレミアムを正当化するには、需要サイドの借り入れ目的が一時的流動性を満たすためという点と、供給サイドに何らかの独占力が必要です。
まず、需要サイドですが、収益率が1000%を超える投資機会が存在するとは考えにくく、通常は一時的な流動性需要を満たすための借り入れでしょう。給料日まで待てない流動性ニーズがあるということですね。
次に供給サイドですが、むじん君にお金を借りに行くと、上限が20万円です。借りる・返す・また借りるというプロセスを繰り返すと、ある日、50万円まで借りられるようになります。つまり、ある程度のクレジットヒストリーがなければ、まとまった資金を借りることができません。そのため、資金の出し手の間の代替弾力性が無限大ではなく、金利にはマークアップが上乗せされることになります。
多くの借り手にとっては、とりあえず資金を用意しなければならず、まとまった額を貸してくれる貸し手の言い値で借りているというストーリーは、直観的にも理解しやすいのではないでしょうか。
流動性プレミアム仮説が正しいとすれば、取立て規制をしても上限金利は下がらないことになります(流動性プレミアム>0の時には、ですが)。
逆に、上限金利規制は、流動性プレミアムの縮小を意味しますから、"独占力"を高めるために行っている、客の囲い込み戦略に変更が生じ、CMが減ったり、ルーキー・ディスカウントが減るかもしれません。しかし、取立てには変化はないでしょう。
上限金利規制が取り立てに影響を及ぼすのは、本文でご指摘のとおり、上限金利<リスクプレミアム付き金利の時になります。
厚生を最大化するには、”独占力”に基づくレントをなくせばいいので、上限規制は有効です。しかし、厳しい取立ての抑制には、相当低い上限金利を設定しない限りは無効のように思われます。
Posted by: 鹿 | May 27, 2006 at 07:38 PM
興味深い議論を読ませていただきありがとうございます。
利息制限については上限ばかりが議論されるのはどうでしょうか。上限についてはご指摘のように取り立てるほうからの制限もあり、一定の歯止めは自然に生じてきてそれを如何に法律で規制として効率的に運用していくかと言う問題のように思います。
しかし私は利息に下限が無いことがおかしいように思っています。「低い金利で貸し出しが行われ、事業者が過剰投資に走り、結果として生産過剰になり不況が訪れる」と言うパターンが何度もあったのではないでしょうか。
利息の下限の歯止めについては自然には生じては来ないでしょう。だからこそ特許制度のように政策として規制が必要だと思うのです。
お礼の代わりに一筆啓上させていただきました。ご意見をいただければ幸いです。
Posted by: 風来坊 | May 28, 2006 at 10:33 PM
鹿さん(お久しぶりです)、風来坊さん、コメントありがとうございます。それからここをご覧くださっているかどうか分からないのですが、TBを下さった方もありがとうございます。
週末にお返事しようと思ったのですがうまく時間を作れずに失敗しました。水曜日に改めてお返事する予定ですので、もう少々お待ちいただければと思います・・・。すみません。
Posted by: 馬車馬 | May 29, 2006 at 06:30 PM
上の方でBaatarismさんが言っていた事とかぶるのですが、最後の貸し手である金貸しは最初に返済を受ける貸し手になろうとして厳しい取立てをすると思います(事故率が0%にならない限りどれだけ低い金利でも)。
利息の上限を制限するのは東京湾に沈むお兄さんやお風呂屋さんに沈むお姉さんの救済を目指していると思うのですが、そうするには、彼ら(というよりも全ての国民)から愚行権を奪うか、厳しい取立てを完全に取り締まるしかない(少数でも取り締まりから逃れる例があればそこの金利があがるだけなので)のではないでしょうか。
また、仮に闇金に手を出して破産するまでが必ず5年以内だとしてもその5年間税金の投入を遅らせることができたことに意味はあると思います(その5年間に最も苦労するのは本人ででしょうし、借金の金額が増えていたら割を食うのは闇金でしょう)。
Posted by: 通りすがり | May 30, 2006 at 01:18 AM
鹿さん、コメントありがとうございました。リプライが遅れてすみません。
おっしゃるとおり、信用の問題を考えないのであれば、時間選好率の(やたらと)高い消費者=借り手とロックイン効果でマークアップが上乗せされた貸出金利で考えるのが一番しっくりくるように思います。それを前提としたとき、上限金利設定と取立の関係が崩れるのもおっしゃるとおりです(取立と上限金利は信用割当の議論で繋げましたので、それを外せば完全に独立ですし)。
もともと過剰な取立(電話先でどなるのが過剰かどうか、という価値判断はさておき)が問題で始まった一件ですから、取立がモデルの中に入っていないとつまらんだろうと思って書いたのですが(取立が入っていないモデルで「金利規制は厚生損失を生むから良くない」という議論も片手落ちでしょうし)、実際にはリスクプレミアムと流動性プレミアムのどちらの要素が大きく効いてくるのでしょうね。
そもそも、信用の問題がないなら取立など不要なわけで、どちらの要素もそれなりに効いているのだとは思いますが。
Posted by: 馬車馬 | June 04, 2006 at 01:34 AM
風来坊さん、コメントありがとうございます(リプライが遅れてごめんなさい)。
金利の下限についてですが、彼らもお金を貸すためにはどこかから資金を調達してこなければならないわけで、通常はその調達金利(銀行であれば国債利回り+アルファ程度)が金利の下限になります。バブルが引き起こされたケースでは、むしろこの国債利回りが低下していたわけで、貸出行動の問題を論ずるよりも、国債金利をどうコントロールしていくかというマクロな金融政策でカバーすべき論点のような気もします。
Posted by: 馬車馬 | June 04, 2006 at 01:41 AM
通りすがりさん、コメントありがとうございます。
貸し手間の競争が取立を煽る結果になるというご指摘は大変面白いですし、現実的でもあろうかと思います(実のところ、本質的なところでBartarismさんのコメントとは全く違うと思います)。それであれば、金利云々にかかわらず、取立は非常に厳しくなる可能性があると思います。
ただし、よほど特殊な状況を除いて、貸し手はお金を貸す段階でそうなることに気がついているはずです。そして、各業者の取立能力(どこまで苛烈に取り立てられるか)が同じであれば、どれだけコストをかけて苛烈に取立を行っても、それは競合業者の苛烈な取立を招くだけになり、期待返済額は増えません。その結果、取立コストが貸出金利に大きく反映されることになり、貸出金利が上昇します。
もしこの状態で上限金利を設定すると、各業者は取立コストをあまりかけられなくなります。また、全ての業者に一律に規制がなされるので、それぞれ苛烈な取立(=高コスト)に上限がかかるようになるため、取立競争が制限され、結果的に取立が緩和される、ということはありうるかもしれませんね。ただし、これは取立を厳しくすればするだけコストが嵩む、という状況を仮定したものです(コストは金銭的なコストとは限りません。法的リスクなどを含みます)。
コストフリーで取立が出来るのであれば、取立を直接制限したほうが良いという結論になると思います。こういう立論での取立規制支持はなかなか説得力があると思います。
最後の段落ですが、すいません、税金の投入というのはどこから出てきた話でしょうか?
Posted by: 馬車馬 | June 04, 2006 at 02:12 AM
馬車馬さん、
私のつたない記事にコメントありがとうございます。
利限法上限規制と、取立規制・・・どっちを主体と考えても金貸しに取ってみれば“営業規制”に他ならぬ訳で、私としては歓迎しかねてしまうんです(笑)
私の単純な脳細胞では、こういったことを善人面して金貸し=悪の固定概念で規制を盛り込もうと考えている与謝野をはじめとするお役人・政治屋連中が気に入らないだけですね。
取立規制としては、現状の貸金業規制法の遵守で充分であると考えますし、金利の規制も上限は40.004%で充分、と言うのが私の考えです。出資法の上限が29.2%へ引き下げられたきっかけが、商工ファンド・日栄の過剰な取立行為によるものですが、これも貸金業規制法で対応しようと思えば可能な訳で、(実際当時もあのまま金利など下げなくて、問題の両社は営業停止になったでしょうし貸金業の登録更新も出来なくなったでしょう)それを単に政治的パフォーマンスの為に金利規制へ話題を転嫁されたこと自体、“そもそも業界への蔑視”が根底にあるのが許せないんですよ。
Posted by: まーきん。 | June 04, 2006 at 11:35 AM
馬車馬さんお返事ありがとうございます。
各業者の取立能力が同じという仮定ですが、銀行と消費者金融の取立能力が同じになるとは思えません。消費者金融には厳しい取立てを行うノウハウと人材があり、預金者へ評判を気にしなくていいため、金銭的コストや風評に関するコストなどが違うからです。また例えば同じ業務停止期間でも失う金額が桁違いなので法的コストも違うと思います(これは金銭的コストですかね)。
逆に言うと、銀行と同じ金利で銀行と同じ取立て方では消費者金融は潰れるほかないのではないではないかということです。取り立て方が同じであれば与信枠はどの金融機関でもほぼ同じになるはずで最初の貸し手(おそらくは銀行)がその枠を使い切るでしょうから。
税金のくだりは、自己破産の手続きでの費用(公務員の人件費や施設費など)、金融業者の損金算入による納税額の減少、相当数が利用するであろう生活保護を意識していました。言葉足らずですみません。
Posted by: 通りすがり | June 05, 2006 at 02:37 AM
まーきん。さん、コメントが大幅に遅れまして大変申し訳ありませんでした。
おっしゃるとおり、貸金業に対して歴史的に根強く存在するある種の偏見、ないしは被害者意識が問題をおかしな方向に向かわせてしまう、というのは徳政令の昔から良く見られる現象のように思います。ただし、一方で自由放任にも色々な問題があるでしょうし、その規制の度合いはそれぞれの社会でのコンセンサスによるしかないのだと思います。もし電話先で怒鳴られるのもいやだというのが国民のコンセンサスなら、思いっきり規制したらよろしかろう、と半ば投げやりに思ったりもいたします。
Posted by: 馬車馬 | July 17, 2006 at 01:40 AM
通りすがりさん、コメントが大幅に遅れまして大変申し訳ありません。
難しいのは、取立て能力が異なると、通りすがりさんが指摘された競争が起こりにくくなってしまう点にあります。あ、でも、互いの取立て能力がどのくらいか分からない、と仮定すれば大丈夫ですが。それもまた現実味は高いとは言えないのですが。
おっしゃるとおり、取立能力の違いによって生まれるのは競争ではなく、すみわけであろうと思います。その意味で、取引規制はサラ金や信販会社潰しとして結果的に機能することになるのでしょうね。
Posted by: 馬車馬 | July 17, 2006 at 01:54 AM